裁縫

  • 2015年03月30日

裁縫が苦手です。
不器用なので思っているようにならないし、テキトーな性格が災いして「作り方」を意訳してしまうのです。
不器用なのだから「作り方」通りにすりゃあいいものを、こういうこっちゃろといった態度で臨み突き進んでしまうため、完成してみれば、なにこれ? といった代物が出来上がるというパターンです。
saihou
中高一貫教育の女子校に通っていました。
やたらと家庭科の授業が多い学校でした。
女子教育に家庭科は必須との考えがあるようです。
調理実習あたりだと、まぁ、そこそこ楽しめるのですが、裁縫の授業はチョーつまらない。
中学1年でエプロンなんて可愛いものを作り始め、やがて浴衣やワンピースへと、どんどん高度な技が必要な難しい物へと挑戦していきます。

裁縫の授業では、生徒たちはまず教壇の周りに集まります。
そこで今日の授業内でやらなくてはいけない、裁縫の作り方が書かれたプリントが配られます。
先生は生徒たちの前で、ポイントとなるべき部分について実際にやってみせ、説明をします。
その説明が終了すると、生徒たちは作業台に散らばって、プリントを見ながら裁縫を始めます。
家庭科の授業は2時限続きなので、100分の間にプリントに書かれているところまで進まなくてはいけません。
が、私はこの100分間友人相手にお喋り。
お喋りの相手である友人は、口を動かしながら手も動かしていますが、私の手は微動だにせず。
友人は2時限の間にポケットを付けたり、前身頃と後ろ身頃を縫い合わせたりと、完成に向けて着実に進んでいますが、当然私はまったく進んでいません。
それでいいのか?
オッケーなのです。
布とプリントを自宅に持ち帰り、母に「よろしく」と言って渡せばいいのです。
翌週の授業日までに母親がプリントに書かれている通り作業を進めてくれているので、それを学校に持参。
私の唯一の仕事はといえば、授業に出てプリントを貰ってくる、これだけであったと言えるでしょう。

ある日、家庭科の教師に名前を呼ばれました。
教壇に近付くと、教師は私の提出物をしげしげと眺めています。
そして「これは、本当にあなたが縫ったものですか?」と聞いてきました。
こくりと頷くと、縫い目をぐっと私に見せるようにして「縫い目が真っ直ぐで、上手すぎるのよね」と鋭い指摘。
私は教師の前でただ固まるのみ。
やがて教師は「わかりました。席に戻って」と言って、私を解放してくれました。
性善説に立っている教師が、私は好きです。

肝を冷やした私は自宅に戻り、母になんと言ったか。
もうこれからは自分でやる――なんて言うわけはなく、こう言いました。
「今度からはもっと下手にして」と。

以降、母はわざと縫い目を曲げたりするという技を使い、私の提出物を作り続けました。
お陰様で私は1つの作品も仕上げることなく、高校を卒業できました。

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