タクシーに乗ったら

  • 2016年12月08日

小説を書く時、登場人物に方言を言わせるか、言わせないかで迷うことがあります。
言わせるならどの程度にするか・・・この判断はとても難しいです。
リアルさを追求すると、その土地以外の人には理解できなくなってしまいますから、匙加減が大切になります。
またその人物の年齢や生い立ち、個性などによって使い分けることも必要になります。
ずっとその土地で暮らしてきた年配の人は多めに、そこで生まれたけれど今は都心で暮らしているといった場合は、軽めにといった配慮をします。

以前ある地方へ行った時のこと。
1人でタクシーに乗ると、運転手さんが話し掛けてきました。
それがなにを言っているのか、まったくわからない。
方言バリバリで外国語並みに、単語ひとつ聞き取れない。
単語がわからないと推理すらできない。
そこで「はい?」と聞き返し、もう一度言ってもらうことに。
と、聞こえてきたのは、やはり耳慣れない音の連続。
それの元は本当に日本語でしょうか? と聞きたいぐらい。
takusi-irasuto
困った私は「ちょっと(あなたの方言が)わかりません」と答えました。
途端に車内には気まずい空気が。
外国語に変換してくれるスマホのアプリがあるらしいのですが、その時の私が望んでいたのは、日本各地の方言を変換してくれるアプリ。
すでにありますか? 私が知らないだけでしょうか。

あまりに気まずくて車窓に顔を向けると、遠くに山が。
「あれはなんていう山ですか?」と私は尋ねました。
その場の空気をなごませたいとの思いからの発言です。
すると運転手さんは、首をほんの少しだけ左に向けるとすぐに戻して「知らん」とひと言。
あっ、それは聞き取れたと喜んだのも束の間、知らないっちゅうのはどういうことだろうとの思いが湧き上がって来ました。

たまに東京でタクシーに乗って行き先を告げると「運転手になって5日目で、まだちょっとわからないもんで、カーナビ使っていいですか?」なんて言われることがあります。
それじゃあまだわからないよなぁと思い「どうぞどうぞ」と私は言います。

が、この運転手さんはバリバリの方言からして明らかに地元っぽい。
運転席には球が並ぶシートクッションが置かれていて、それを留めるゴムが背もたれの背後に回されているのですが、そのゴムの伸び具合が、使用されてからの年月を語っています。
昨日今日運転手になったのではないと思えるのです。
それなのに山の名前を知らないなんて・・・方言を理解できなかった私への報復でしょうか。
それとも「ここらじゃあんなもんそこらにあっから、名前なんてよー付けんわ」といった地元ならではの理由があるのでしょうか。

それからどうしたって?
目的地に着くまでの15分あまり、私はひたすら静寂を噛み締めました。

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