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我慢ならない女

我慢ならない女

  エピソード  

美術館に行った時のことです。
一枚の絵の前で、足が動かなくなりました。
あぁ、この人の小説を書きたい。
と、強く思いました。
それは、トマス・エイキンズの「アメリア・ヴァン・ビューレン」というタイトルの絵で、女性の肖像画です。
1891年頃に描かれた油彩画です。

まず、絵のモデルになるには、そうなる理由やストーリーがあるものでしょう。
画家の恋人であったり、知人であったり、肖像画の発注者であったり、請われてモデルとなるのを了承した人であったり。
こうした様々な事情から、画家の前に立つことになるのでしょうが、基本的にはこちらへ顔を向け、さぁ、描いてくださいといった姿勢を見せているものです。
ところが、この「アメリア・ヴァン・ビューレン」の女性は、顔を横に向け、非協力的な態度です。
椅子の肘あてに片肘をついて座り、とても不満そうです。

また、大体の女性の肖像画では、手持ちの中で一番高価であったり、お気に入りの服や宝飾品であったりするものを、身に着けています。
画家がこういう服を着てくれと依頼し、それを着ているという場合もあるかとは思いますが、そうした場合でも、そのモデルの美をさらに高めるような品が選ばれています。
しかし、この絵の女性は、明らかにミスマッチといった服を着ているのです。
結い上げた白髪と、険しい顔つきが特徴の女性が、可愛らしいドレスを着ています。
それは違和感とともに、彼女の不自由さを窺わせているように見えます。
その時代が、彼女にとっては生きにくいのでしょうか。
それとも彼女のおかれている環境が、彼女らしさの表現を許してくれないのでしょうか。
あれこれと想像をめぐらしているうちに、物語が動き始める気配を感じていました。

この不機嫌な女性の肖像画との出会いから三年。
「我慢ならない女」という小説が完成しました。
インスピレーションを与えてくれた絵に、感謝しています。

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