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残された人が編む物語
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残された人が編む物語

  エピソード  

あれは確か、2人の編集者と打ち上げをしていた席のことでした。
本が無事刊行したので、お疲れ様の会を中華料理店で開いてくださったのです。
こういう時、どんな話をするのかとよく聞かれます。
大した話はしません。
その日の話題も、サッカーや買い物で失敗した話、とんでもなく不味いカレーを作った話など多岐にわたりました。

そんな中でテレビ番組の話になりました。
ある人気番組のファンだと私が言うと、編集者たちも「あれ、面白いですよねぇ」と賛同してくれました。

それは番組のスタッフが街行く人に声を掛けて、そのままその人の家に行っちゃうというもの。
その人の家にお邪魔して、そこにあるものなどの話をスタッフが聞いていく。
話を聞いているうちに、その人の人生が見えてくるのです。

過酷な人生を過ごしてきた人、辛酸を舐めた人、不遇な人、環境には恵まれていないけれど目標に向かって頑張っている人・・・様々な人生が紹介されます。
この番組を観ていると、フツーの人の人生がとっても濃いことに気付かされます。
なんの問題もなく過ごしてきました、なんて人はいない。
まぁ、そういう人は面白くないということで、ボツになり放送されない、ということはあるでしょうが。
皆、色々あるんだなぁと思い、また大勢の人たちがトラブルや困難を受け止め、乗り越え、生きているんだなぁとも感じます。
自分だけじゃないんだと少しほっとして、明日も頑張ろうと思える、そんな番組です。

2人の編集者と私は、番組で紹介された中で、それぞれが記憶に残ったケースを披露し合いました。
そうやって披露し合った後で私は言いました。
あの番組を観ていると、人生には様々な別れがあるのだと気付かされると。

別れはそもそも辛いものだけれど、宙ぶらりんになってしまう別れは、格別辛いと私は思っています。
きちんとさよならをしたのではなく、大切な人がある日突然、いなくなってしまったようなケースです。
残された人は、気持ちの置き所に困るのではないかと私が言うと、編集者たちは深く頷きました。
その様子を見た私は、ならばと「次作はこれをテーマに小説を書いてみようかな」と発言しました。
すると編集者たちは「いいですね」とコメントしてくれました。

こうして小説のテーマが中華料理店で決まりました。
こんな風にあれこれ話をしているうちに、テーマが決まることもあるのです。

この小説には5人の物語が描かれています。
皆、宙ぶらりんの別れを経験している人たちです。
喪失感への対処の仕方はそれぞれ。
彼らが喪失から先の向こうに、なにを見るのかもそれぞれです。
彼らの物語を味わってみてください。

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