新刊「ウチの共有不動産揉めてます!」に登場する渚は看護師長。
命を扱う仕事だからミスは許されない。
だから緊張感をもって仕事にあたるように、部下たちに指導しています。
特に厳しくしているつもりはない。
それなのに、気が付いたら渚は職場で孤立していました。
職場の飲み会に一応誘われるけれど、欠席を前提に声を掛けられているのが、アリアリと分かってしまう。
今更仲間に入れて欲しいという訳ではないけれど、なんだかなぁと思っています。
渚の母親が亡くなり、相続した実家の土地と家を、きょうだいで4等分するつもりでいたら、一番下の妹がなんだかんだと言い出しました。
とんでもないことだと憤慨する渚。
そんな我が儘が通るはずもないと思っていましたが、法律上相続人全員が了解しないと売却出来ないため、話は一歩も進まなくなります。
こんな時には長男である兄に、びしっと仕切って欲しいところなのですが、優柔不断で決断出来ない性格のため頼りにならない。
弟は弟で、深く考えずに行動するため、足を引っ張りかねない危うさが。
うんざりしている渚に、追い打ちをかけるように更なる厄介事が。
渚は相続問題に巻き込まれながら、自分の過去と向き合っていくことになります。
渚が最後にどんな決断をするのかまでの過程を描いているのが、小説「ウチの共有不動産揉めてます!」です。
どうぞお楽しみください。
私が年に一度検査のために訪れる病院でのこと。
採血室に入ると初めて見る看護師さんが。
初々しい感じの若い看護師さんです。
それまでの方は辞めたのか姿がありません。

私はセーターを腕まくりして左腕を差し出し、明後日の方向へ顔を向けました。
自分の腕に針が刺さっている現場を見る勇気がない私は、採血の時には大抵顔を背けているのです。
で、ちくっとする痛みを覚悟していると、それがなかなかやってこない。
看護師に目を向けると・・・私の腕に物凄く顔を近づけてガン見している。
そしてその顔には困ったような表情が。
えっ。
「まさか、採血初めてとかって、ことはないですよね」と心の中で尋ねる。
看護師が突然言う。「反対の腕でもいいですか?」と。
不安が大きくなりながらも右腕を差し出す。
また私の腕にぐっと顔を近づけて、真剣な表情。
しばらくそうやってから「はい。こっちの腕で」と言いました。
今、あなたはなにを決めた?
何十年も採血は左腕でして貰ってきましたが、あなたが左ではなく、右で勝負しようと決めた理由はなに?
嫌な予感が胸に広がる。
案の定、これまで経験したことがない強い痛みを感じながらの採血となりました。
そして針が刺さった箇所は内出血してしまい、一週間ぐらい痣が消えませんでした。
小説「ウチの共有不動産揉めてます!」に登場するきょうだいの一人、春馬。
4人きょうだいの長男です。
子どもの頃から、長男だからしっかりしろと、親やきょうだいたちから言われ続けてきました。
長男が皆、しっかりした性格とは限らないというのに。
そんな圧を掛けられて、グレたりする性格でもなかった春馬は、皆が期待する長男の役を演じようとしてきました。
しかし優柔不断で結論を出せない性格の春馬は、しっかり者の長男の役を演じきれません。
ストレスが溜まるいっぽうの毎日です。
春馬は小さな翻訳会社の社長をしています。
ここでもまた皆が期待する社長の役を、必死で演じようとしますが、会社は自転車操業でうまくいっていません。
公私共に演じることを強要されているなかで、どちらもうまくいっていない状況でした。

昔、私がフリーランスでライターをしていた頃、小さな編集プロダクションから仕事を受けていたことがあります。
その編集プロダクションは当時40代ぐらいの男性社長と、女性編集者2名だけで、書き仕事は全て私のようなフリーランスに、外注するというスタイルをとっていました。
仕事はたくさんあるようで次々に依頼がくるのですが、如何せんギャラが安い。
なので「他の仕事の合間に少しだけなら受けてもいっかなぁ」といったぐらいのスタンスでいた私。
他のライターたちも同じように思っていたでしょう。
こっちも生活していかなくちゃいけませんからね。
ある日、その編集プロダクションで打ち合わせをしていたら、社長がクライアントと電話で話している声が聞こえてきました。
マンションの一室でしたから、聞き耳を立てていなくても、しっかりと聞こえてしまうのです。
どうやら無理めな急ぎ仕事をふられている模様。
社長は一旦断るものの、クライアントから粘られて押し切られそうになっている。
そして5分後。
社長はその急ぎ仕事を引き受けていました。
特急仕事であれば、クライアントに通常料金への上乗せを要求するのがフツーだと思うのですが、社長がそのような交渉をしていませんでした。
社長はライターに電話をかけ始めます。
相手の声は聞こえなくても、そんな締め切りでは受けられませんと、断られている様子なのは分かります。
社長はこれから受けてくれるライターを、探し続けるのだろうなと想像し、そうやっていつも忙しそうにしているのに、全然儲かってなさそうな理由を見つけた気がしました。
その後、そこの編集プロダクションとは縁が切れたのですが、風の噂で廃業したと聞きました。
小説「ウチの共有不動産揉めてます!」の翻訳会社はどうかというと・・・社長の春馬が会社をどうしていくべきか悩み、迷い、そして決断するまでの過程が描かれています。
春馬が変わっていく様子を、見届けていただけたらと思っています。

願っていた通りの人生を送っていますか?
「はい」と答えられる人はどれくらいいるでしょう。
かなり少ない、というか稀なのでは。
ほとんどの人は、思い描いていたのとは違う人生を送っているのだと思います。
新刊小説「ウチの共有不動産揉めてます!」に登場する4人のきょうだいたちもそう。
全員が第一希望とは違う人生を送っている。
第二か、第三か。
第三どころか、想定外の人生になっている者も。

長男は小さな会社の社長をしていますが、それは第一希望ではありませんでした。
周囲に強く勧められて断り切れず、渋々社長に就いた長男。
その会社は自転車操業で、お金の心配をする毎日。
そもそも、やりたくてやっているのではないけれど、責任感はあるので、なんとかしなくちゃと思っている。
でも空回り。
長女は中堅規模の病院の看護師長。
周囲から一目置かれている。
部下の看護師に対しては勿論、医師たちにも毅然とした態度で接するから。
気が付けば長女は病院で孤立していました。
長女は望んで看護師になったものの、現状については、なんだかなぁと思っています。
後先考えずに行動する次男は大企業に再就職しましたが、順風満帆とはいっていない。
前妻と暮らしている息子との仲は希薄。
大恋愛の末に結婚した次女は、夫から離婚を切り出されてしまいます。
すったもんだの末に離婚して、実家に戻ります。
個性が強過ぎる母親との暮らしは、ストレスが溜まるいっぽう。
就職氷河期世代の次女は時代のせいで正社員になれず、そこから躓き続きだと嘆きます。
このように希望していたのとは違う人生を送っている4人が、遺産を巡って争うお話が「ウチの共有不動産揉めてます!」です。
きょうだいで争ううちに、それぞれが現状を打破しようという気持ちに。
次の一歩を踏み出そうとします。
彼らの変化と決断を見守りながら、この小説を味わっていただきたいと願っています。
新刊「ウチの共有不動産揉めてます!」を書こうと思ったのは・・・私がこれを体験したから。
まさか共有不動産の揉め事に巻き込まれるとは、思っていなかった私。
次から次に起こる「はぁ?」「なんで?」「どうしてそうなる?」といった展開に、びっくりしているだけの日々が続いていました。
そんな時期に編集者と会食の機会が。
食事もそっちのけで、身に降りかかった事態を熱く語ると、編集者の身近でも色々あったと判明。
共有不動産という落とし穴はすぐ近くにあるのだと分かりました。

これは書かない手はないということで、次作のテーマは共有不動産に決定。
私は執筆前にきっちりとプロットを作る方なのですが、今回は熱い思いがあり過ぎて、物語としてまとまらない。
物語の成形に挑戦している間も、私自身の共有不動産問題はどんどんこんがらがっていく。
現実に引っ張られないように、頭と心を切り替えるのが大変でした。
苦心しましたが、実体験で学んだ共有不動産がらみの法律や判例、業界のことをこの小説の中に盛り込みました。
小説なので物語を楽しんでいただくことが一番ですが、共有不動産についての知識も増えるので、なにかのお役に立てるとしたら、それも嬉しいです。
この小説を執筆中のこと。
スマホにショートメッセージが。
〇〇様のお宅の査定金額が出ましたと書いてある。
迷惑メッセージにしては、間違えた名前を書いてくるというのは、どういうことだろうと思ったものの、そのままスルー。
20分後にまたショートメッセージが。
別の不動産会社からで、〇〇様のご自宅の査定金額をお知らせしますという内容。
そこで気付く。
〇〇さんは自宅の売却を検討していて、査定金額を知ろうとしているのではないかと。
不動産会社のwebに物件情報を入力して、査定金額を知ろうとしたものの、携帯番号を間違えてしまったのでは?
不動産会社に電話番号を教えてしまうと、頻繁に電話が入るので注意した方がいいと、どこかのネット記事に書かれていました。
だから私は自分の電話番号を入力しなくてもいいところにしか、査定依頼をしませんでした。
○○さんはそれを知らなかったのでしょうか。
案の定、翌日2つの不動産会社から携帯に電話が。
〇〇ではないと言って電話を切りました。
〇〇さんが正しい携帯番号を入力していたら、激しい電話攻勢にあっていたのではないでしょうか。