ライター時代のことです。
葬祭ディレクターに取材をする機会がありました。
現場で仕事ぶりを拝見させて貰えることになり、約1ヵ月間喪服を着て、スタッフのようなフリで葬儀会場をうろつきました。
そこでは様々な人間模様が垣間見えました。
父親がホームから転落したというご葬儀では、20代ぐらいの息子さんが泣き崩れていました。
90代の女性のご葬儀に、会葬者が誰も来なかったということもありました。
喪主である妻を十分間だけ葬儀会場から出すというミッションが、行われたケースもありました。
なんでも愛人がどうしても線香を上げたいと言っていたそうで、葬祭ディレクターは妻に「別室にいらっしゃる僧侶にご挨拶をお願いします」と声を掛けて、葬儀会場から連れ出す作戦を決行。
そうして妻が席を外している隙に、愛人はご焼香。
スタッフたちの連携で、見事にトラブルを回避する様を見させて貰いました。
いつかここら辺のことを小説に。
そう思っていましたが、なかなか形になりませんでした。
ある日、新聞の折り込み広告に目が留まりました。
それは終活の相談を承りますという、葬儀会社のものでした。
こっちだ。
そう感じました。
遺された人たちの物語ではなく、これから自分の人生の閉じ方をどうしようかと考えている人たちを、描いたらどうだろうと思いました。
すると様々なキャラクターたちが浮かんできて、物語が動き出す気配を見せてきました。
彼らはお墓をどうするかとか、お葬式をどんなスタイルでするかといったことを決める前に、これまでの自分の人生を振り返る作業に取り掛かります。
果たして自分は幸せな人生を送ってきたのか、それとも?
立ち止まり、人生の見直しを始めた登場人物たち。
彼らに寄り添っている執筆中には、色々なことを考えさせられました。
それぞれが辿り着いた境地を、皆さんはどう感じるでしょうか。