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たそがれダンサーズ

たそがれダンサーズ
  エピソード  

机にはいつもネタ帳を置いています。
思い付いたことを、そこに書き留めておきます。
そして時折、そのノートを開いてみます。
後から見ると、なんでこんなことを書いておいたのかと首を捻るような言葉ばかり。
でも中にはそこから発想を広げていけるようなものも。

その日も何の気なしにノートを捲りました。
そしてそこに「男同士で社交ダンス」の文字を発見したのです。
そうそう。書いた書いた。
確かに私が書き留めたのです。
なにがきっかけで思い付いたのかは覚えていないのですが、ノートに書き付けたことは憶えていました。

改めてこのアイデアについて考えてみました。
男性と男性が社交ダンスをしたらどうなるだろう。
優雅にダンスというよりは、スポーツに近いものになるのでは。

編集者に相談し、実際に大会を見学させて貰いました。
すぐ近くでダンスを見学してみると、やはりスポーツに近い。
信じられないようなスピードで移動しながら、難しいステップを刻んでいる。
フロアを打つ靴音、息遣い、衣擦れの音・・・ダンサーたちの迫力と真剣さに心打たれました。
そして控え室をこっそり覗いてみると、男性ダンサーたちのぐったりしている姿がありました。
女性ダンサーたちがメイク直しをしたり、軽食を摂ったりとフツーにしているのに比べて、男性ダンサーたちは壁に背中を預けて仮眠を取っていたりして、一様に疲れて見える。
さっきまでフロアで、溌剌と踊っていた同じ人物とは思えないほどの疲労困憊ぶり。
その落差がいいなぁと思いました。
登場人物はオッサンにしようと思った瞬間でした。

詳しい方からレクチャーを受けるだけでなく、実際にレッスンを見学させていただいたり、インストラクターや生徒さんから話を聞いたりする中で、物語の輪郭がどんどんくっきりしてきました。

恐らくネタ帳に書き付けた時には、男性二人が身体をくっつけて踊るといったものを考えていたと思われますが、社交ダンスについて勉強するうちに、フォーメーションという競技があると知り、男性たちだけで群舞をすることにしました。

ノートに書き付けた小さな種は、私が想像もしていなかった形の花になりました。

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