小説はまず編集者との打ち合わせから始まります。
どういった話にしたいのか私から提案すると、編集者から質問が出ます。
それに答えるうちに、私の頭の中で小説の骨格が出来上がっていきます。
そこには編集者の要望や意見なども取り込まれています。
それからプロットの作成に入ります。
登場人物たちのキャラクターを考え、ストーリーを決めます。
かなりきっちりと作り込みます。
第1章第1節の場所はどこで、登場人物の誰と誰が、どんな風に出会うかといったことだけでなく、そこで登場人物が感じる心模様も考えます。
そして再度編集者との打ち合わせ。
前回とは違ってプロットを見ながらの打ち合わせなので、編集者から出る質問もより具体的。
編集者の意見を踏まえて、プロットをその場で修正することもあります。
この後執筆に入ります。
プロットの通りに書いていく・・・はずなのですが、何故かそうはならない。
登場人物のキャラは変わっちゃうし、ストーリーも予定外の方向へ進んでいく。
それを止めることができない。
私が書いているのに、私の力ではコントロールできなくなってしまう。
言っていることが不思議過ぎて、なかなか理解していただけないだろうと重々承知しています。
自分がこうしたい、こうするつもりだと作成したプロットなのに、それを無視し「私の力ではどうにもできないの」などと、まるでなにかの力が存在するかのような発言は、大人として問題です。
この「僕は金(きん)になる」もそうでした。
当初は弟から見た、姉の人生を書くつもりでした。
その考えに沿ったプロットを作成しました。
ところが書き始めてみると・・・弟から目を離せなくなってしまいました。
フツーである自分にコンプレックスがあって、自分になにか特別な才能があってくれと祈っている少年。
その少年が青年になり、社会人になっていく・・・そんな彼に寄り添っているうちに、気が付けば彼の人生を描いていました。
「僕は金(きん)になる」を書き上げ、編集者にメールをした時には「どうか、あのプロットは忘れてください」と懇願の文章を付けました。
当初の予定とはまるで違う小説になったからです。
だったらあの打ち合わせの時間はなんだったんだと、お叱りを受けて当然なところですが、編集者は慣れていて「わっかりました~」と受け止めてくれました。
平凡な人生なんて実は1つもなくて、すべての人の人生にドラマがあって、笑いがあって、涙がある。
同じものはなくて、世界にたった1つの、自分だけの人生。
注目されるような特別なものではないかもしれないけれど、自分にとって素晴らしい人生にすることはできる。
この「僕は金(きん)になる」を読み終わった時、そんな風に感じて貰えたら・・・嬉しいです。