傘
- 2014年05月12日
どんなに晴れている日で、降水確率が0パーセントであったとしても、出かける時のバッグには折り畳み傘を忍ばせています。
まるで慎重に生きている人みたいに折り畳み傘を持ち歩くようになったのは、ここ十年ぐらい。
それ以前は、出先で降られて買った傘はいく知れず。
狭い玄関が、そうやって購入した傘に占領されてしまうのを指を銜えて見ているだけでした。
昔OLをしていた頃、自宅の最寄り駅まで辿り着いた時、外は土砂降りでした。
当時、その駅近くにコンビニはなく、時間潰しができる書店も閉店してしまっている時間でした。
空を睨んでいると、「どっちの方向ですか?」と男性の声が。
声がした方に顔を向けると、30代ぐらいのスーツ姿の男性が、指で右と左を交互に指差していました。
駅からの道は左右で分かれているので、そのどっちへ帰るつもりなのかと尋ねているようでした。
私は無言で左方向を指差しました。
すると「だったら送りましょう。当分止みませんよ」とナイスな提案をしてきたのです。
ナンパされるような容姿ではないですし、当時はそれほど物騒な世の中でもなかったので、親切で言ってくれているのだろうと判断し「それはそれは。ありがとうございます」と素直に受け入れることに。
相合傘で歩き出すと、篠突く雨によって足元はぐっしょりと濡れていきます。
靴の中にも雨が入り込んできて、気持ち悪いのなんのって。
さらにカップルでもないので、微妙な距離を取る2人には傘はちょいと小さい。
互いの外側の肩は濡れている状態。
これで、雨を凌いでいると言えるのだろうかとの疑問が浮かんできます。
「お仕事の帰りですか?」とか、「天気予報って外れますよね」といったなんてことはない会話も、雨の音でよく聞こえなくて「はい?」と聞き返したり、大声で「天気」「予報って」などと区切って発音したりと、なんだかメンドー臭いことに。
自然と無言になっていきますね、こうなると。
他人同士で相合傘で無言。
これ、結構キツイです。
結局、10分ほどで私の自宅前に到着。
私がお礼を言うと、片手を上げて、男性は去って行きました。
翌日、勤め先でこの話をすると、「名前は?」「年は?」「結婚してないんだろうね」とか「向こうの住所は?」と女子の同僚たちから質問の矢がびゅんびゅん飛んできました。
なにも聞いてなかったなぁと気付き、そう言うと、「んだよ」「それじゃ、次の展開ができないじゃないか」とか「あんたはそうやってチャンスを無駄にする女だ」と言った非難と指摘の声が。
どうやら同僚たちは映画やドラマの展開を想像してしまったようです。
映画やドラマでしたら、それがきっかけとなって・・・となるのでしょうが、現実の世界ではそうはならないのです。
親切な人が、同じ方向だったら、傘に入れてあげよっかなぐらいの感覚で声を掛けてくれただけなのです。
あしからず。