文庫版になって発売された「残された人が編む物語」の内容を少しだけご紹介。
この小説には5つの物語が収められています。
その中の1つ「最高のデート」の主人公は関根由佳。
44歳の由佳は化粧品の訪問販売の仕事をして、子どもを育てています。
以前は専業主婦でした。
10年前に銀行員だった夫が失踪。
それからずっと夫の帰りを待つ生活を続けています。
由佳は定期的に、全国の警察のホームページをチェックします。
遺体で発見された身元不明者の情報を、チェックするために。
ある日、身元不明者の所持品の一覧表に、見覚えのあるネクタイの画像を発見します。

それは夫の物なのか。
由佳の心は乱れます。
生きているのか、死んでいるのかが分からない状態で10年。
ようやく真実が分かるのか。
どういう結末を自分が望んでいるのか、どんな結末ならば納得出来るのかが、分からなくなります。
由佳が最後にどういう心境に達するのかを、見届けて欲しいと思っています。
私の友人A子が、B男と別れたのは7年前。
でもA子は未だにB男のことを忘れられない。
だからB男との復縁が叶うかを、占って貰ったりしています。
占い師は「そんなもん、無理に決まっているだろ」とは絶対に言わない。
それで「今はその時じゃない」などと言う。
そして次回の占いの予約を取るように勧めてくるという。
「占い師のカモになっているだけじゃん」と私は思うのですが、A子はそうは捉えておらず、占い師の元にせっせと通っています。
果たして7年間も忘れられないほどのいい男だったのか?
私はA子に確認します。「結構喧嘩してたよね」と。
するとA子は「たまにね」と軽く流す。
そしてどこそこに行った時に、とても楽しかったとか、こんな風に言われたなどと、素晴らしかった思い出のみを熱く語ります。
そうしたエピソードは、初めて聞いた時とは若干変わっていたりします。
繰り返し思い出しているうちに、自分に都合よく、ドラマチックに編集してしまった模様。
思い出は自分で編集出来てしまうので、真実を覆い隠してしまうことがあるようです。
今日は「残された人が編む物語」の文庫版の発売日です。
3年前に単行本として発売した小説が、文庫サイズになって登場です。
読み逃していたという方は、是非この機会にお買い求めください。
「残された人が編む物語」には5つの物語が収められています。
その中の1つを紹介させて頂きます。
樋口智裕は区役所勤め。
大学生の時に組んでいたバンド仲間の1人、岡本涼太を捜すことに。
涼太の行方が分からないため、行方不明者捜索協会に調査を依頼します。
担当の西山静香と共に、涼太の行方を追います。
そうした中で、智裕は以前2人の間で起こったことを苦々しく思い出したりします。
あの時、どうすれば良かったのか、どうしてそうしなかったのか・・・智裕はあれこれ考えます。
同時にすっかり忘れていたことも思い出します。
バンド活動をしていた頃の自分たちが、どれほど無謀な夢をもっていたか、輝いていたかということを。
バンドを解散した後の人生を振り返り、これで良かったのだろうかという疑問が浮かんできます。
果たして智裕がどんな物語を紡ぐのか。
皆さんに読んで頂けたらと思います。

智裕のように以前熱中したこと、物を、久しぶりに思い出して、酸っぱい気持ちになる・・・といった経験はありますか?
私は実家の片付けをしていた時に、ドイツ語のテキストを発見し、酸っぱい気持ちになりました。
英語も出来ないのに、何故か「これからはドイツ語ぐらい出来ないと」と思い、学校に通った時期があります。
学校の授業についていけず、個人レッスンも受けていました。
だからテキストとノートが大量にあり、使い込んだ辞書も。
あぁ、それなのに。
全く身に付かなかったという事実を久しぶりに思い出し、酸っぱい気持ちでいっぱいになりました。
「残された人が編む物語」の中で、智裕は自分が輝いていた頃を思い出します。
一緒にいた仲間たちのことも。
仲間との思い出を胸に、これからどう生きていこうとするのか。
智裕の決断を見守って頂けたらと願っています。
文庫「残された人が編む物語」の発売が近付いてきました。
発売日は6月12日ですが、地域や書店さんによって入手出来る日は前後しますので、ご注意くださいね。
あなたは後悔したことがありますか?
私は毎日何回も後悔します。
一日に何度も後悔するのですから、これまでの人生は後悔だらけと言っていいでしょう。
後悔まみれです。
私ほどではないにせよ、後悔の経験がない、なんて人はいないのでは。
小説「残された人が編む物語」にはたくさんの後悔が描かれています。
どうして大丈夫だよと言ってあげなかったのだろうとか、どうして逃げてしまったのだろうとか。
そうしていたら、結果は違ったのではないかという後悔です。

悔やんでも取り返しがつかない。
呆然とした後で、自分に怒りを向ける登場人物も。
小説の登場人物たちはそれぞれのやり方で、大切な人の人生を辿ります。
大切な人の人生を知っていくうちに、後悔は深くなりますが、また別の感情も湧き上がってきます。
痛みと、その先の感情。
こうしたことを描いた小説です。
お手頃価格になったこの機会に、是非お買い求めを。
小説のごくごく一部を紹介すると・・・上田亜矢子は弟を捜すことに。
何十年も没交渉だった弟の行方が、分からなくなっていたから。
弟が出会った人たちから話を聞いて歩き、彼がどんな風に生きていたのかを知っていきます。
弟らしいなと思うエピソードもありますが、意外な一面を知るようなエピソードも。
亜矢子の後悔は小さくはなりませんが、別の感情も浮かんできます。
亜矢子が最後になにに気付くのか。
興味をもたれた方は、本書を手にお取りください。
6月12日に小説「残された人が編む物語」の文庫版が発売になります。
文庫版はお手頃価格になっていますので、この機会に是非お買い求めください。
単行本として発売したのは約3年前。
書評欄などでたくさん取り上げて頂きました。
そうしたものを拝読すると、読み方というのは千差万別なのだと改めて思います。
どう読んだのか、どう感じたのかといったことが、人それぞれで、そうした感想は私にとって驚くことばかり。
小説を完成させるまでに、何十回と推敲を重ねます。
自分で作った世界ですし、何十回と読んでいるのですから、次に誰がなにを言うか、どう行動するのかは分かっている。
なのに、同じ個所で毎回泣いてしまう・・・ということがあります。
「残された人が編む物語」にも、そうした箇所が2つあります。
自分で書いておいてなんで毎度泣くねんと、己にツッコミをするのですが、涙は止まらない。
で、こうした箇所が書評で取り上げられるかといえば、そうではない。
私が泣きながら読んだシーンではなく、えっ? そこ? と思うような箇所について言及されていることがしばしば。
作者の思い入れが強い箇所と、読者が強く感じる箇所は同じではないのです。
でも、それでいいんです。
小説を味わうというのは個人的な行為だから。
好きな時に、好きなスピードで、好きな解釈で、好きな登場人物に感情移入して読めばいいのですから。
発売前に私の手元に届いた見本がこちら。

淡く優しい印象のカバーとなりました。
この本には5つの物語が収められています。
共通点は大切な人を失うこと。
その哀しみと痛みを抱えた登場人物たちが、再び歩み出すまでを描いています。