座席で

  • 2016年05月16日

芝居を観に行きました。
開幕の15分前に劇場に到着。
チケットを片手に自分の席を探します。
と、番号が指し示しているのは、右端の席から一つ隣の席。
ネットで座席の位置を確認したうえでチケットを購入したので、これはわかっていたこと。
わかっていなかったのは、右端の席が右の壁と接していたこと。
劇場の右端の壁と、右端の席の間には通路があると思っていたのです。
が、なかった。
これは非常にマズい。
トイレが近い私は、劇場などでは通路にすぐに出られる席を狙います。
で、着席すると、途中トイレに行くとしたらあの扉が一番近いなと動線を確認します。
そんな私が、うっかりして取った席は、奥まった逃げ場のない場所。
こういう時に限って「トイレに行きたくなったりするんだよな、私って」と悪いことばかり想像してしまう。
zaseki
劇場の通路で呆然としているのも変なので、覚悟を決めて「失礼します」と声を掛け、着席している人にちょこっと膝を引っ込めて貰いながら、自席に向かって進みます。
前のシートとの間は狭く、足元は見えずで、なにかを踏んだ気がします。
ても、こういう時は気が付かないフリで突き進むしかないのです。
10人ほどのお客さんと膝を擦り合わせた後着席。
ふうっ。
もしトイレに行きたくなったら、これだけの人と膝を擦り合わせて通路に出なくてはいけないのだという事実に、打ちのめされそうになります。

ふと右隣を見ると60代ぐらいの男性が、ちょっと窮屈そうに座っています。
壁に背中を預けるようにして足を組んでいますが、あくまでも自席の範囲内で収めるため、かなり小さくたたむようにして座っていました。
で、この男性、寝ていました。
芝居が始まって眠ってしまう人はよく見かけますが、開始前にすでに寝息を立てている人は初めて見ました。
その男性は片手に紙コップを持っていて、そこには半分ほどのコーヒーが残っています。
「零すなよ」と心の中で声を掛けました。

客席の照明が落とされ、芝居が始まりました。
賑やかな音楽と力強い歌で、一気に舞台の世界に引っ張り込まれます。
が、右隣の男性は眠ったまま。
誰かに魔法でも掛けられたかのように、身体を小さくたたんだままで、コーヒーを零すこともなくじっと眠っている。
なぜ眠っているとわかるかというと、スースーと寝息が聞こえてくるからです。
こいつの鼻が詰まってなくて良かったと思うのは、私だけじゃないはず。
また、ガァーガァーといびきでも掛かれたりしたら、隣の私はどうやって「この人とは赤の他人です」とアピールすればいいかに頭を悩ますことになったでしょう。

で、舞台は盛り上がったまま休憩に。
隣の男性をチェックすると・・・開始前に見た時と同じ格好で、眠っていました。
およそ1時間半以上眠っていた模様。
そんなに普段は眠れないのでしょうか。
不眠の原因は仕事でしょうか、プライベートでしょうか。
なにがそんなにあなたを睡眠不足にさせているのかと聞いてみたい衝動を、なんとか抑えます。
休憩が終わり芝居が再開されました。
が、右からは相も変わらず寝息が。
それから一時間半後、芝居は終わりました。
大きな拍手が出演者たちに送られます。
と、ここで隣の男性の目が覚めた。
で、拍手をし出します。
なにに?
とツッコミたくなりました。
ずっと寄りかからせてくれた壁の硬さに対してでしょうか。

えっ? 私ですか?
勿論素晴らしい舞台でしたので、出演者たちに拍手を送りました。
同時にトイレを催さなかった自分にも拍手を送りましたが。

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