パーティー会場でのバイト
- 2017年11月02日
大学生の頃、パーティーの臨時ウエイトレスを1回だけしたことがあります。
友人から誘われたのです。
その友人が口にした時給はとても良く、その場で現金払いだという話でした。
友人ら4、5人で指定されたホテルの控え室に行くと、女性社長が待ち構えていました。
そして私たちを頭の先から足の先までじろっとチェックし「ちゃんと化粧をして頂戴」と言いました。
その時私も含めて全員がメイクをしていたので「へ?」といった顔をしました。
その女性社長からすると私たちのメイクはダメだったようなのですが、だったらどうしたらいいのかわからず、皆途方に暮れました。
すると女性社長は持っているメイク道具をテーブルに出すよう言いました。
しばらくの間それらを眺めていた女性社長は、突如私の顔にチークを入れ始めました。
それから口紅も塗ると、隣の子の修正へと移っていきました。
私は女性社長の修正状況を探るべく、鏡を覗きました。
びっくり仰天。
おてもやんってこんな顔してなかった? といった仕上がりに。
頬の中央には真っ赤な円。
口も出血しているのではと見紛うほどの赤色で塗られています。
そうして私だけではなく友人たちの顔にも、真っ赤なチークと真っ赤な口紅が塗られていきました。
全員が「違くない?」といった表情をしていたのですが、追い立てられるようにパーティー会場へ。
立食パーティーでの私たちの仕事は、飲み物をグラスに入れて、それを盆に載せて配って歩くこと。
空いている皿を見つけたら片付けること。
バイキング式の料理を皿に取り分けて、それをお客さんに勧めること。
200人以上集まるパーティーで、自分はおてもやんになっていることも忘れ、必死で言われた仕事をしていました。
料理を盛った皿を手に歩いていると、着物姿の先輩ウエイトレスから声を掛けられました。
「お寿司と他の料理は同じお皿には載せないのよ」と注意されました。
すみませんと謝り急いで皿を分けながら、チークを大量に顔に塗るより、こういうことを教えておいてくれよと思いました。
そんな基本的なことさえ知らなかったのです。
小説「僕とおじさんの朝ごはん」では、ケータリング業の男が登場します。
依頼を受けてパーティーなどの料理を作るだけでなく、指定された場所で料理をサーブすることもあります。
そこは祝いの場であったり、お披露目の場だったりするのですが、そこに参加している人が皆同じ思いではない。
客たちは不満や不安を抱えていて、それぞれの事情がある。
ある特殊な効果があるという薬を持っていないかと、男は度々客に聞かれます。
ケータリング業の男は、そんな人たちを冷めた目で見ています。
そんな薬を欲しいと言う人たちを小馬鹿にしているのです。
でもやがてその薬と向き合わざるを得なくなります。
男の変化と、彼が出した答えを、皆さんに見ていただけたらと思います。