ユリ
- 2018年07月26日
週に1度定期配達して貰っている花の中に、白いユリがありました。
そういえば・・・と、昔のことが思い出されます。
以前住んでいた街のクリーニング店。
外観はいたってフツー。
店内に入ると、待ち構えていたのは40~50代ぐらいと思しき女性。
ワンピースを着ている。
なにを着たっていいっちゃ、いいんですが、クリーニング店の受付でワンピースを着ている人はあんまり見ないので、おっと驚く。
ちらっと腕元をチェックすると、グッチの時計をしている。
店を間違えて入ってしまったのではと一瞬焦る。
自己紹介されたわけではありませんが、この女性はオーナー夫人と読む。
カウンターの隅に置かれた雑誌に目が向く。
それはヴァンサンカン。
最新号とバックナンバーが2冊の合計3冊。
ヴァンサンカンとは、お金持ちでエレガント志向の女性ファッション誌です。
待っている間に客が読むための雑誌が1種類だけ、しかもそれがヴァンサンカンということに、このオーナー夫人のはっきりとした意思を感じる。
そしてレジの横には大きなガラス製の花瓶が。
そこに大量の白いユリが活けられていました。
思わず目玉を剥いてしまう。
ユリの花粉は服に付くとどんな手を使っても落ちないので、扱いに慎重さが求められる花。
少し花が開いてきたら、花芯の先端をそっとカットするのがセオリー。
ずぼらな私が、このユリの花芯の先をカットすることだけは必ずやる。
花粉が服に付いてしまったら、もうどうしようもないから。
なのになのに。
このクリーニング店ではユリを飾っている。
花粉に神経を注がなくてもいい花ならいくらでもある。
というか、ユリ以外だったらどの花だっていい。
それなのに敢えてユリを選んだのは・・・オーナー夫人の趣味なんでしょう。
どんなに忙しくても花芯はすべて完璧にカットするという自信があるのか、それとも花粉が付いてもうちなら落とせるという洗浄力をアピールしているのか。
で、注意深くユリを見てみると・・・花が開いているものの花芯はすべてカットされている。
が、今まさに開こうと動き始めたばかりといった花の花粉は、残っている。
ユリは物凄い生命力で、あっちゅう間に花を開いていくのが特徴。
そのユリが大量にあるので、どんどんカットしていかなくてはいけない。
クリーニングを受け付けてる場合じゃない。
といったぐらい忙しくなるはずなのですが、それほど客がどんどんやって来るお店ではないのか。
それに「どうしてユリを飾ってるのよ。他の花にしなさいよ」と、正論をぶつけてくるようなオバチャンキャラの客は皆無なのか。
疑問はたくさん浮かびます。
その疑問を解決するためにこの店に通い、オーナー夫人と親しくなってみようと思ったのですが、料金が安いクリーニング店が登場して、そちらに行くようになったため目標は達成できず。
やがてその街を離れることに。
ワンピースにグッチにヴァンサンカンのオーナー夫人は元気だろうかと、届いたユリの花芯をカットしながら思いを馳せたのでした。