春との旅
- 2011年08月25日
「春との旅」という映画を観ました。
とてもいい映画でした。
仲代達矢さんの演じるジジイが、我儘で、偏屈で、最高でした。
ジジイと孫が理由あって旅をします。
旅の途中には、美しい景色がたくさん映されていましたが、心に残ったのは、ホテルのシーンでした。
ジジイと孫がホテルに泊まることになります。カメラは、2人が泊まっていると思われる部屋の前に並ぶ、ジジイと孫の靴を映します。
ホテルに泊まったことのない2人は、ドアの前で靴を脱いでしまったのでしょう。
ふっと、微笑んでしまうシーン。
このまま二人の生活が続きますようにと、思わず、祈ってしまう。そんな気持ちにさせられた、シーンでした。
本筋とは関係ない、そんな1シーンが、心に焼きつきました。
同じ映画を観ても、心に残るシーンは人それぞれ。
それは、制作側の意図とも違うのではないかと思います。
小説でもそうですから。
執筆中に何回も書き直して、苦労したシーンは、思い入れも強くなります。
ですが、残念ながら、そういうシーンが心に残ったと言われることは少なく、「えっ、そこなの?」というような、なんでもないシーンをあげられる方が多かったりします。
言われて、初めて、思い出したというようなセリフだったりもします。
肩の力が抜けている時の方が、人になにかを伝えられるのかもしれません。
「春との旅」を観終わって、思い出したのは、小津安二郎監督作品の「東京物語」。
どちらも、厳しい現実を見せつけられてしまう映画です。そして、最後に、他人から優しい気持ちと言葉を掛けられるという共通点もあります。
肉親に求めて得られず、ささくれ立っていた心に、他人の優しさが沁みてくる、そのシーンは、大勢の観客の琴線を震わし、涙を誘います。
心に残るシーンは人それぞれではありますが、2つの映画とも、このシーンだけは、全員が必ず、心を動かされずにはいられない場面になっています。
こうした不動の名場面の出来が、名作と呼ばれるか否かにかかっているように思えます。