保険の勧誘

  • 2011年10月24日

会社員時代、昼休みになると、そっと現れる女性がいました。
生命保険会社の人でした。
どういったつてで、会社で営業活動をする許可を取ったのかはわかりませんが、昼食中の社員の間を回り、星座占いを印刷した紙や、キャンディを配って歩いていました。
地味な感じで、真面目な雰囲気をもった人でした。
昼休み中ではあっても、私たちの邪魔をしないよう配慮しながら、社内を静かに歩き回って営業活動をする人でした。
当時の私は、ケ・セラ・セラを信条としていましたので、生命保険などという将来を見据えた商品には、見向きもしませんでした。
その人から、何度か保険に入るよう、勧誘されたような記憶がありますが、まったく興味を示さなかったせいでしょうか、やがて私には近付いてこなくなりました。

 ある日、若くてミニスカートをはいた女性が会社に現れました。

今まで来ていた人とは別の、生命保険会社の営業員だという話でした。
どうしたことでしょう。
それまで、保険の話をされると、露骨に嫌そうな顔をしていた男性社員たちが、ミニスカート女からの説明には、喜びの表情を浮かべて聞くではありませんか。
そんな男性社員たちを見た女子社員たちは、「わかりやすっ」と不快感を露わにしました。
そのミニスカート女は、同性から嫌われているというのは百も承知なようで、女子社員たちには一切営業をしませんでした。
そして、二ヵ月ほどの間に、何十人もの男性社員の契約を取ることに成功し、その後、ぱったりと姿を見せなくなりました。
「○○保険の○○ちゃん、最近、顔、見せてくれないなぁ」などと、ちゃんちゃら可笑しなことを、男性社員がほざく度に、「ばーか。契約取ったら、二度と来ねぇよ」と女子社員たちは低い声で呟くのでした。

 そんなことがあったせいでしょう。
契約を目の前でかっさらわれたにも関わらず、相変わらず、そっと社内を歩く地味な営業員に、女子社員たちの同情が一気に集まるようになりました。
そして、その人は、数件の契約を女子社員たちから取ることに成功しました。

 当時は、「ミニスカートで男から大量の契約を取る女」VS「こつこつと努力する女」という構図で見ていましたが・・・。
今、ふと、思うんです。
もし、二人がグルだったとしたら――。
こんな最強のコンビは、ないのではないかと。
なんだか、こんな設定の小説を書きたくなってきました。

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