内職

  • 2011年11月03日

小学生の頃、一大ブームが巻き起こりました。

 きっかけは、クラスの友人の家に遊びに行ったことでした。
その子の家には、母親がやっているという内職の用具が入った段ボール箱がたくさんありました。
どれどれと、お手伝いさせてもらいます。
アルミカップを、折り畳んで、小さく丸めるというのが、仕事内容でした。

今、考えると、なんで、そんな内職があったのか、甚だ不思議なのですが、当時は、パリパリという畳む時の音と、どんどん手慣れて、スピードが上がっていく快感に、夢中になりました。
あまりに楽しかったので、学校に持って来てよと、言ったところ、翌日、その子は本当に持って来てくれました。
休憩時間に、黙々とアルミカップを折る私とその子。
当然、注目を集めます。
「私にもやらせてー」といった声が、主に女子からかかり、それじゃとアルミカップを配布します。内職の輪がどんどん大きくなっていきます。
気が付けば、パリパリという音が、教室中に溢れるまでに。
あっという間に、その子が持ってきたアルミカップはすべて折り畳まれてしまいました。
「もっとやりたーい」「明日も持って来てー」と要望が出て、翌日、その子は前日の倍の量のアルミカップを持って、学校に現れました。
このために生まれてきたんじゃないかと思うほど、無我夢中でアルミカップを折り続ける日が、何日か続きました。
こうした時に、いるんです。おたんこなすちゃんが。
授業中にまで折る子です。
音をさせたもんだから、すぐに先生に見つかってしまいました。
なにをしてるんだという話になり、どこから持ってきたのだと追求され、非難の矛先は、元締めの子へ。
結局、その子は、二度と、家の内職仕事を学校に持ち込まないようにと、きつく先生から叱られてしまいました。
翌日の教室には、突然生きがいを奪われて、放心状態になった女子たちで溢れていました。
私も楽しく、充実していた日々を振り返り、ぼんやりと教室の窓から外を眺めたことを覚えています。 

子ども時代のブームって、今考えると、不思議なものだったりしませんか?

手袋

  • 2011年10月31日

革の手袋を購入しました。
手持ちのスエードの手袋は、指先が白っぽくなってしまったので、新しいのを探していたところ、キャラメル色のをネットで発見。早速ゲットしました。

指先と足先が、非常に冷えてしまう性質で、秋口から手袋は欠かせません。冬になると、暖房を入れた自宅でも指先がキンキンに冷えてしまい、動かしにくくなってしまいます。パソコンのキーボードを叩くのさえ、大変な状態になってしまいます。
しょうがないので、一時は自宅で手袋をしてキーボードを叩いていました。
すると、掌が赤くなり、湿疹のようなものが。
皮膚科へ行くと、「掻いた汗が蒸発できなかったからかなぁ」と医者は首を捻りながら呟いていました。「なにか思い当たることは?」と聞かれたので、「全然わかりません」と、空っとぼけておきました。
こうなると、手袋をしたままではキーボードを叩けないので、使い捨てカイロを握って、指先を温めては、叩く。また、カイロを握っては、叩く・・・。といったメンドーな入力作業に。冬場はだいたいこうした執筆スタイルになります。

 秋先から困るのは、銀行のATMです。
私の口座がある銀行は、静脈認証形式を採用していて、暗証番号だけじゃなく、人差し指の静脈をセンサーで読み取って、本人かどうかを確認します。
この、本人と認めてもらうのが、大変なんです。
ほら、指はキンキンに冷えてますから。
まず、手袋をして銀行に向かいます。
ATMの前に陣取ったら、手袋を脱ぎ、人差し指の運動です。
上にぴっと伸ばし、すぐに丸めて、今度は左へぴっ。元に戻して、はい、また上に・・・といった具合に、人差し指の体操をします。
人差し指が温まったのを見計らって、静脈認証に挑戦です。
が、一回目で読み取ってもらえたことはありません。
画面には「本人と確認できませんでした」というメッセージが。
次に、ぐっと手を握り、指先に血をめぐらせてから、再トライ。
ここで本人と認めてもらえたら、その日はついています。
今度は人差し指に、はあーと息を吹きかけてから、もう一度。
だいたい、ダメですね。
もう、この時点でうんざりしています。
ですが、どんなにうんざりしていても、お金を下ろせないことには、生活できないので、今度は服に指を擦りつけて、摩擦熱をいただくという作戦に出ます。
防犯カメラに映る私の姿は、怪しくないだろうかと、思わないでもありませんが、致し方ありません。
摩擦熱で本人と認めてもらえたら、嬉しいのですが、ここでダメだと、次は手を叩いて、指を温かくするオペレーションに進むことになります。
これ、かなり恥ずかしいので、できれば、避けたいです。
ATMに向かって、拍手を打つ女がいるらしいなどと、都市伝説となってしまいそうだからです。
私が本人だと、すぐに認めてもらえる方法はないものでしょうか。
冷え症の女には、厳しい季節が、やってきました。

隣人の謎

  • 2011年10月27日

以前住んでいたマンションの隣人は、謎めいていました。

 私が暮らし始めた当初、隣の一家は、駅前で八百屋を営んでいるご夫婦と、三人の子どもたちでした。明るい奥さんで、道で会うと、大きな声で、「こんにちは」と言ってくれる人でした。

ある日、その八百屋にシャッターが下りていました。張り紙には、店を近くに移転したとありました。移転した先は、そこに書かれた地図を見るかぎり、裏通りにあり、商売をするには、今の場所より条件が悪そうでした。しばらくして、その一家は裏通りの店をたたみ、引っ越していきました。なにがあったのだろうと想像し、また、あの元気な「こんにちは」を聞けないのだなと思って、ちょっと淋しくなったことを覚えています。

その一家が引っ越した後、しばらくの間は、リフォーム業者らしき人たちの出入りが見受けられました。
そして、ある日曜日に、次の家族が越してきた気配がありました。
その晩、「隣に越してきました」と、一家揃って私の部屋に挨拶にいらっしゃいました。二十代に見えるイケメンのご主人と、おとなしい感じの奥さん。そして、奥さんは生まれたばかりといった赤ちゃんを腕に抱いていました。まだ若いのに、挨拶にいらっしゃるわ、手拭いまでくれるわで、しっかりした方だなという第一印象をもちました。

半年ほどたった頃でしょうか。
赤ちゃんを抱っこした女性が、隣の部屋に入っていくのを目撃。
ところが・・・ん? お母さん、違くない?
その時、隣の部屋に入っていった女性は、挨拶にお越しになった人とは明らかに違う女性だったのです。
ま、妹さんとか、お姉さんとか、そういう方が、たまたまお守をしているんだろうなと思い、それ以上深くは考えませんでした。
ところが。
その後、何度か隣の部屋に出入りする親子を目撃する機会がありましたが、その度に、挨拶に来た人とは違う女性が、子どもを連れているのです。
挨拶に来た、あの女性はどこへ?
そもそもお母さんではなかったのか?
だったら、引っ越しの挨拶に来る?
母親の代わりに挨拶に来たのなら、そうひと言、言わない?
私の心は千々に乱れます。
ですが、疑問を当人に尋ねられるほど、親しくもなれず、建物内ですれ違えば、目礼する程度でした。

月日は流れ、ある日の夕方、一階にある郵便受けから新聞を取り出していると、「なんでやねん」という子どもの声が。
振り返ると、件の親子でした。
子どもはすくすくと成長し、一人で歩けるようにまでなっていました。さらに、カタコトを喋られるようにまで。
っていうか、なんで関西弁?
挨拶に来た時の赤ちゃんが、その子なら、この東京で育ったはずなのに。
ご主人も二人の女性たちも、ほんのちょっとの挨拶程度とはいえ、関西弁でないことは明らか。普段は関西弁でも、東京弁も流暢に使いこなすという人もいますが・・・。
この二人目の女性が、ご主人を罵倒するのを何度も耳にしたことがあるのですが、そうした時、東京弁を使っていました。こんな時は、普段の言葉が出ると思うので、やはり、元々が東京弁の人のように思えます。
とすると、子どもはなぜ、関西弁に?
アニメとか、テレビの影響でしょうか?
お母さんのチェンジ(?)もそうでしたが、子どもの関西弁も謎を深めます。
この一家から目が離せないぜ、と注意深く観察していましたが、謎は解決せぬまま、私は引っ越すことに。
仲良くなって、謎を解決しておきたかったなぁと、今でも後悔しています。

保険の勧誘

  • 2011年10月24日

会社員時代、昼休みになると、そっと現れる女性がいました。
生命保険会社の人でした。
どういったつてで、会社で営業活動をする許可を取ったのかはわかりませんが、昼食中の社員の間を回り、星座占いを印刷した紙や、キャンディを配って歩いていました。
地味な感じで、真面目な雰囲気をもった人でした。
昼休み中ではあっても、私たちの邪魔をしないよう配慮しながら、社内を静かに歩き回って営業活動をする人でした。
当時の私は、ケ・セラ・セラを信条としていましたので、生命保険などという将来を見据えた商品には、見向きもしませんでした。
その人から、何度か保険に入るよう、勧誘されたような記憶がありますが、まったく興味を示さなかったせいでしょうか、やがて私には近付いてこなくなりました。

 ある日、若くてミニスカートをはいた女性が会社に現れました。

今まで来ていた人とは別の、生命保険会社の営業員だという話でした。
どうしたことでしょう。
それまで、保険の話をされると、露骨に嫌そうな顔をしていた男性社員たちが、ミニスカート女からの説明には、喜びの表情を浮かべて聞くではありませんか。
そんな男性社員たちを見た女子社員たちは、「わかりやすっ」と不快感を露わにしました。
そのミニスカート女は、同性から嫌われているというのは百も承知なようで、女子社員たちには一切営業をしませんでした。
そして、二ヵ月ほどの間に、何十人もの男性社員の契約を取ることに成功し、その後、ぱったりと姿を見せなくなりました。
「○○保険の○○ちゃん、最近、顔、見せてくれないなぁ」などと、ちゃんちゃら可笑しなことを、男性社員がほざく度に、「ばーか。契約取ったら、二度と来ねぇよ」と女子社員たちは低い声で呟くのでした。

 そんなことがあったせいでしょう。
契約を目の前でかっさらわれたにも関わらず、相変わらず、そっと社内を歩く地味な営業員に、女子社員たちの同情が一気に集まるようになりました。
そして、その人は、数件の契約を女子社員たちから取ることに成功しました。

 当時は、「ミニスカートで男から大量の契約を取る女」VS「こつこつと努力する女」という構図で見ていましたが・・・。
今、ふと、思うんです。
もし、二人がグルだったとしたら――。
こんな最強のコンビは、ないのではないかと。
なんだか、こんな設定の小説を書きたくなってきました。

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