漢方
- 2012年03月01日
20年ほど前のことです。
軽い咳が止まらなくなりました。
当初は、風邪が長引いているのだろうと、軽く考えていましたが、一向に治まる気配はありません。
近所の病院に行って検査して貰いましたが、咳止めの薬をくれるだけ。
その薬を飲めば、咳は止まりますが、薬を飲まないと、咳がぶり返します。
薬は眠くなるし、飲み続けるという行為には不安もありました。
そこで、知人に紹介された、大学病院内の漢方科へ。
予想外に、採血されてしまい、「西洋医学じゃん」とぶーたれていると、ドクターの問診タイムに。
「軽い、コン。咳が、コン。半年ぐらい、コン。止まらないんです、コン」と咳混じりに説明。
せっかく病院に行っても、ドクターの前に座った途端、その症状があまり出てくれないといったことはありませんか?
私は、よくあります。
そこで、必死で、今は、これぐらいだが、さっきまでは、こ~んなに酷かったのだとアピールするはめになることもしばしばなのですが、この時は、ベストなタイミングで咳が出てくれて、小さくガッツポーズしたいぐらいでした。
ドクターからは「血液検査の結果によれば、ハウスダストと花粉のアレルギーがあるようですが、それは軽度のようなので、体力が低下しているのが原因かもしれませんね」と言われました。
薬を出して貰うことになり、院内の薬局へ。
すると、初めての人は、薬の用意ができるまでの間、そこに座って、ビデオを見るようにとの指示が。
そこで、最前列に座って、ビデオ観賞。
漢方薬の正しい作り方と飲み方をレクチャーするビデオでした。
土瓶に、コップ1杯分の水と、漢方薬を入れ、沸騰させないよう、とろ火で、水が半分になるまで、煎じる。一気に飲む。砂糖やはちみつなど、ほかのものを混ぜない・・・。
と、なかなか面倒そうなことオンパレード。
薬局のカウンターに目をやると、土瓶が1000円ほどで、販売されています。
ビデオ通りの作り方をさせようという本気度が窺い知れました。
我が家に土瓶はあったろうかと、考えていると、薬局のスタッフが、一人の名前を呼びました。
隣席の男性が、カウンターへと向かいます。
聞くともなく、聞いていると、「八万円になります」との声が。
仰天した私が、カウンターを見ると、男性が、落ち着いた顔で、財布からお金を出していました。
八万円と言われて、平常心?
もしかして、その値段は、漢方では普通なのか?
っていうか、あなたは、どんな病気なのですか? と尋ねてみたい気持ちをぐっとこらえ、その男性が会計を済ませたところで、カウンターに駆け寄りました。
「私の番はまだなのですが、だいたいいくらぐらいなのか、先に教えて貰えないでしょうか? 手持ちのお金では足りないなら、ATMを探して、お金を下ろしてこなければならないのです」と早口で尋ねると、「5千円前後」との回答。
胸を撫で下ろし、元の席に戻りました。
自宅に戻り、早速、ビデオにあった通りに薬を煎じました。
木くずや、枯れ葉や、腐った根っ子のようにしか見えない代物を、土瓶に入れます。
煎じているうちに、水はどぶ川のような色になっていきました。
こんな色のものを、口にしてもいいのだろうかと不安は募ります。
なんとか、勇気を振り絞って、トライ。
ところが、ひと口飲んだ途端、そのまま流しに吐き出してしまいました。
この世のものとは思われぬ、マズさ。
マズさ、世界一の称号を与えてもいいんじゃないかと思うとともに、砂糖やはちみつを混ぜたくなる人の気持ちを一気に理解しました。
それでも、咳を止めたい私は、なんとか薬を飲もうと再トライ。
ですが、ひと口飲んでは、おえっと嘔吐くの繰り返し。
やっとの思いで、飲みきると、なんだか喉が痒くなる感じ。
本当にこの薬を信じていいのかと、土瓶の底に残った木くずを、じっと見つめ続けました。
それから2日後。
朝、目覚めると・・・ん? 咳が止まっている!!
なんと、半年もの間続いていた咳が、ぴたっと止まっていました。
しかも2日で。
漢方。恐るべし。
疑った私を許してください。
先日、別の症状を抱えていた私が、漢方の病院をネットで探していたところ、以前大学病院の漢方科で診察してくれたドクターが、クリニックを開いているとわかりました。しかも、自宅から徒歩で十五分ほどの距離。
早速予約を取って、診察してもらいました。
処方箋をもらい、隣の薬局へ。
すると、以前のような、そこら辺に落ちていそうな木くずっぽいものではなく、ごく普通の顆粒タイプの薬が出てきました。
驚いて、矯めつ眇めつ見ていると、「今は、漢方薬も顆粒タイプになっていて、味もよくなり、随分飲み易くなったんですよ」と薬剤師さんが説明してくれました。
そうか、あれから、20年も経ってるんだもんなぁと、漢方薬の進化に、時の流れを感じてしまいました。