昼間の六本木で
- 2013年07月22日
六本木を歩いている時でした。
時は、午後2時過ぎ。
ランドセルを背負った子どもが歩いていたり、ベビーカーを押している人がいたりと、昼間の六本木は、夜とは違う表情を見せています。
と、前方から、チワワを連れた女性が歩いてきました。
そのチワワと女性を見るともなく見ていると――。
突然、チワワが足を止めました。
女性は驚いた様子で、リードを強く引っ張り、散歩を続けようとします。
が、チワワは足を踏ん張り、頑として動こうとしません。
女性は「どうしたのよ。行くわよ、ほら」と声を掛けますが、チワワは尻を落とし、徹底抗戦の構えを見せます。
そんなチワワの頑張りも、哀しいかな、体重が軽いせいで、女性がちょいと強くリードを引っ張れば、ずるずると引き摺られてしまいます。
それでも、チワワは踏ん張り続けます。
チワワが意地を見せていることに感心しながら、ふと、視線を上げると、そこには銀行のATM。
チワワが心を惹かれるような場所には、思えません。
ほかの犬の臭いがついていそうな場所でもありませんし、なににそれほど執着しているのか、わかりません。
お金を下ろしたかったのでしょうか。
飼い主には内緒の出費の予定があり、なんとかお金を工面したかったとか。
それとも、恋仲の犬がATMにいることを、その鼻で嗅ぎつけていて、どうしても愛の言葉を伝えたかったとか。
或いは、生き別れになった兄の臭いを感じ取り、臭いを追い掛けて、兄の居場所を突き止めたかったとか。
妄想を膨らませながら、私はチワワと女性の横を通り過ぎました。
歩き進み、赤信号にぶつかったので振り返りました。
すると、業を煮やした女性が、ちょうどチワワを持ち上げようとしているところでした。
抵抗も空しく、軽々と腕に抱かれてしまったチワワでしたが、その足はピンと踏ん張っている状態で、まだまだ足掻いている様子。
そういば、以前、犬の言葉の翻訳機が発売されたというニュースを聞いたことがあります。
確か、犬の鳴き声から、その意味を人間の言葉に変換してくれる機械だったような。
そのニュースを聞いた時は、どこまでがシャレで、どこからが本気かわからないなぁと思っただけでしたが、今、あの翻訳機があったなら・・・あのチワワの気持ちを理解できるかもしれない。
そう思ったら、強烈に、あの翻訳機を手に入れたいという気持ちになりました。