単行本から文庫へ
- 2017年08月21日
単行本として出版した作品を、数年後に文庫という別の形で改めて出版することが多いです。
文庫化するにあたって、作家はなにもしないと思っていらっしゃる方もいるようですが、実際は改めて読み直し推敲します。
勿論作家によってその対応の仕方は様々で、誤植等の修正以外はまったく直さず、そのまま出す人もいらっしゃるし、これじゃタイトルは残っていますが、別の作品ですよね? ぐらい大幅に書き直しされる人もいます。
私はなるべく手を入れないようにしながらも、気になった箇所を修正します。
この「なるべく手をいれないようにしながら」というのが大事。
直そうと思い始めたら、あそこはこうした方がとか、ここはああした方がと、あちこちを修正したくなります。
それによって多少は良くなるかもしれませんが、それはあくまで技術的な面の話。
書いた時の勢いや熱などを、減らしてしまう危険性があります。
下手であっても、一途な熱さが読者の心に届く場合もあります。
なので、ある1ヵ所が気になったとしても、直すのか、そのままにするのかを慎重に検討する必要があります。
このため結構な時間を掛けて推敲作業を行います。
これは時間的なことだけでなく、精神的な負担がかかる作業です。
その原稿を書いたのは4、5年前。
4、5年前に書いた原稿と向き合うということは、4、5年前の自分と向き合うことでもあるからです。
以前テレビで、男性彫刻家が出演しているのを見ました。
「昔の自分の作品を見て、今どう思いますか?」と聞かれたその彫刻家は、「久しぶり。元気だった? と声を掛けたくなるような気分」と答えました。
私は思わず「そうなんだ・・・」と呟きました。
そんな風に過去の自分の作品と向き合う人がいることに驚きましたし、羨ましくなりました。
この話を友人A子にしたら・・・昔の自分の写真を見た時の感じと一緒なのかな? と聞かれました。
「止めて、見たくない」と過去の自分を拒否するタイプもいるし、「この頃は必死で頑張ってたんだな」と自分を労いたくなるタイプもいる。
このように様々なタイプがいることが、過去の自分の作品との向き合い方が人それぞれなことと、同じではと考えたようです。
ビミョーに違う気がするのですが、とにかく過去を全部背負って前に進むしかないようです。