赤っ恥
- 2022年03月17日
フリーライターをしていた頃の話です。
週刊情報誌の仕事をしていました。
餃子の専門店を取り上げると編集者から言われました。
ある漫才コンビが、そのお店で餃子を食べている写真を撮るから、その撮影の合間にちゃちゃっと取材して記事を書けとの指令が。
「ちゃちゃっと取材して」などと言う編集者は、碌なもんにならないと後になって知るのですが、この時は「へーい」と受けました。
当日、カメラマンとお店へ。
先にお店の方に取材。
男性の漫才コンビの到着を待つ間に、マネージャーさんから、2人のプロフィールを書いた紙を貰いました。
ざっと目を通したところで2人が到着。
カメラマンが準備をしている間に、私は質問を始めました。
ところがどうも話が噛み合わない。
私は1人の方が、部類の料理好きだと思っているので「ご自身で作られた時とは違いますか?」などと尋ねる。
漫才師は「いやぁ、自分じゃ作らへんなぁ」と真顔で答える。
そこで私は「作るのはパン、オンリーなんですか?」と重ねて聞く。
すると漫才師は目を真ん丸にして「パンを作るって?」と言う。
だから私は「パン教室に通っているんですよね。プロフィールに書いてありましたよ」と告げました。
「パン教室?」と大きな声を上げて驚いた様子。
私はマネージャーさんから貰った紙を差し出し、ほら、ここにと指差しました。
そこには「趣味:パンクラス」の文字が。
私は格闘技に疎く「パンクラス」なるものが、総合格闘技団体の名称だとは知らなかったのです。
だからこれを、パン作りの教室に通っていると自力で訳していました。
漫才師は「ちょっと待ってや。パンクラスでパン教室?」とよく通る声で言いました。
そしてずっと隣で話を聞いていた相方と声を揃えて「なんでやねん」とツッコンできました。
穴があったら入りたいとはこのことか、てな状態の私。
店内は大爆笑の渦。
この失態はあっという間に広がり、翌日違う現場に行ったら、初対面のカメラマンから「漫才師から天然ボケをツッコミされたライターって、あなた?」と聞かれました。
はい、私です。
その時現場にいたカメラマンとばったり会いました。
20年ぶりぐらいの再会です。
「元気?」と尋ね合った後で、カメラマンはこの話をしてきました。
「よく覚えてましたね」と私が言ったら、「忘れられないよ」とカメラマンは答えました。
長いキャリアの間には、たくさんのライターと仕事をしたでしょうに、しっかりとその記憶に刻むほどのエピソードを残してしまったんですね、私は。
今思い出しても赤面ものです。