実家を片付けていた時のこと。
母親の若い頃の写真を発見。
写真の中の母親はとてもファッショナブル。
ちょっと驚きました。
手先が器用な人だったので、自分で作ったのかもしれません。
今でも充分オシャレな服を着て、サングラスなんかしちゃっている。
そういえば、晩年、デイサービスに行くための服を、これにしようか、あれにしようかと時間を掛けて選んでいましたっけ。
母親はファッションが好きだったようです。

文庫「残された人が編む物語」には「幼き日の母」という小説が収められています。
西山静香は自分の幼少時のことを鮮明に覚えています。
母親がどういう服を着ていたかといったことを。
また服をどこから調達していたかも。
それが周囲からどんな風に見られていたかも。
やがて忘れていた記憶も思い出していきます。
そうした記憶の中の自分を振り返り、静香がどんな心境に達するのか。
それを見届けて頂きたい小説です。
実家の片付けをしていた私は、自分の昔の写真も見つけました。
当たり前なのですが「若い」。
顔も身体も真ん丸でパンパン。
いくら10代だからといって、そんな短いスカートをはいて太い足を見せなくても良かっただろうにと、今になって猛反省。
サラサラな髪の写真を見た時には・・・そうか、この頃の私はこんな髪質だったのかと遠い目に。
ストレートヘアもやがて年を重ねてうねり捲り、ペヤングソース焼きそばの麺ぐらいに縮れることなど、当時はまったく想像していませんでした。
時はいろんなものを変える。
でも変わらないこともある。
人の歴史って面白いですね。
先週発売になった文庫「残された人が編む物語」をご紹介。
今日はこの本に収載された小説の中から「社長の背中」をピックアップ。
川田剛は以前勤めていた会社の社長、矢作鈴子に連絡を取ろうとします。
携帯に電話をしますが、現在使われていないとのアナウンスが。
昔借りた金を返すために、鈴子にコンタクトを取りたい剛は、新しい連絡先を調べることに。
かつての知り合いを辿ります。
しかし鈴子の連絡先を知っている人物を見つけられない。
素人での調査に限界を感じた剛は、行方不明者捜索協会に依頼。
担当の西山と鈴子の行方を追います。
そうした結果、剛が知ったのは・・・。
後悔と感謝と寂しさ。
様々な思いが剛の胸に溢れます。
最後に剛は一つの選択をします。
それがどういったものなのかは、是非本書でご確認ください。
鈴子は靴が好き。
ということで、小説内には靴にまつわるエピソードがいくつか入っています。

私も靴が好き。
好きが高じて靴のメーカーで働くことにしたほど。
好きなせいか、小説の中に靴がちょいちょい出てきます。
20年ぐらい前に発表した「ボーイズ・ビー」という小説内にも、靴職人のジジイが登場していますし。
そういえば、小説「嫌な女」の中にも靴にまつわるシーンがありましたっけ。
かつては7センチヒールの靴を履き、平気で歩き回っていましたが、さすがにもうそれは無理。
今はヒールのない、ぺったんこの靴を履いています。
たまたまネットで見つけた一足がとても足に合うので、その色違いを7色買い揃えました。
自分の足にぴったりの靴とはなかなか出合えないので、運良く見つけた時には、大人買いをするようにしています。
文庫版になって発売された「残された人が編む物語」の内容を少しだけご紹介。
この小説には5つの物語が収められています。
その中の1つ「最高のデート」の主人公は関根由佳。
44歳の由佳は化粧品の訪問販売の仕事をして、子どもを育てています。
以前は専業主婦でした。
10年前に銀行員だった夫が失踪。
それからずっと夫の帰りを待つ生活を続けています。
由佳は定期的に、全国の警察のホームページをチェックします。
遺体で発見された身元不明者の情報を、チェックするために。
ある日、身元不明者の所持品の一覧表に、見覚えのあるネクタイの画像を発見します。

それは夫の物なのか。
由佳の心は乱れます。
生きているのか、死んでいるのかが分からない状態で10年。
ようやく真実が分かるのか。
どういう結末を自分が望んでいるのか、どんな結末ならば納得出来るのかが、分からなくなります。
由佳が最後にどういう心境に達するのかを、見届けて欲しいと思っています。
私の友人A子が、B男と別れたのは7年前。
でもA子は未だにB男のことを忘れられない。
だからB男との復縁が叶うかを、占って貰ったりしています。
占い師は「そんなもん、無理に決まっているだろ」とは絶対に言わない。
それで「今はその時じゃない」などと言う。
そして次回の占いの予約を取るように勧めてくるという。
「占い師のカモになっているだけじゃん」と私は思うのですが、A子はそうは捉えておらず、占い師の元にせっせと通っています。
果たして7年間も忘れられないほどのいい男だったのか?
私はA子に確認します。「結構喧嘩してたよね」と。
するとA子は「たまにね」と軽く流す。
そしてどこそこに行った時に、とても楽しかったとか、こんな風に言われたなどと、素晴らしかった思い出のみを熱く語ります。
そうしたエピソードは、初めて聞いた時とは若干変わっていたりします。
繰り返し思い出しているうちに、自分に都合よく、ドラマチックに編集してしまった模様。
思い出は自分で編集出来てしまうので、真実を覆い隠してしまうことがあるようです。
今日は「残された人が編む物語」の文庫版の発売日です。
3年前に単行本として発売した小説が、文庫サイズになって登場です。
読み逃していたという方は、是非この機会にお買い求めください。
「残された人が編む物語」には5つの物語が収められています。
その中の1つを紹介させて頂きます。
樋口智裕は区役所勤め。
大学生の時に組んでいたバンド仲間の1人、岡本涼太を捜すことに。
涼太の行方が分からないため、行方不明者捜索協会に調査を依頼します。
担当の西山静香と共に、涼太の行方を追います。
そうした中で、智裕は以前2人の間で起こったことを苦々しく思い出したりします。
あの時、どうすれば良かったのか、どうしてそうしなかったのか・・・智裕はあれこれ考えます。
同時にすっかり忘れていたことも思い出します。
バンド活動をしていた頃の自分たちが、どれほど無謀な夢をもっていたか、輝いていたかということを。
バンドを解散した後の人生を振り返り、これで良かったのだろうかという疑問が浮かんできます。
果たして智裕がどんな物語を紡ぐのか。
皆さんに読んで頂けたらと思います。

智裕のように以前熱中したこと、物を、久しぶりに思い出して、酸っぱい気持ちになる・・・といった経験はありますか?
私は実家の片付けをしていた時に、ドイツ語のテキストを発見し、酸っぱい気持ちになりました。
英語も出来ないのに、何故か「これからはドイツ語ぐらい出来ないと」と思い、学校に通った時期があります。
学校の授業についていけず、個人レッスンも受けていました。
だからテキストとノートが大量にあり、使い込んだ辞書も。
あぁ、それなのに。
全く身に付かなかったという事実を久しぶりに思い出し、酸っぱい気持ちでいっぱいになりました。
「残された人が編む物語」の中で、智裕は自分が輝いていた頃を思い出します。
一緒にいた仲間たちのことも。
仲間との思い出を胸に、これからどう生きていこうとするのか。
智裕の決断を見守って頂けたらと願っています。