小説と音楽

  • 2014年03月24日

小説を執筆する前に、その作品の世界にぴったりな音楽を探します。
およそ半年ほどの執筆期間中、1日何時間もその音楽を聞き続けます。
そうすれば、気持ちを一定に保てますし、すんなりと作品世界に入ることができるからです。
onngaku
女性小説家を主人公にした小説「我慢ならない女」を書こうと決めた時、さて音楽はなににしようかと、あれこれ悩みました。
あたりを付けて、CDを買ったり、ダウンロードしてみたり・・・。
ですが、なかなかこれぞといった音楽に出合えません。

ある日、フィギュアスケート大会のテレビ中継をぼんやり眺めていました。
と、ある女子選手が演技をスタート。
タンゴの曲に合わせて、情熱的に滑っています。
これかもしれない。
そう思った私は目を瞑り、じっと音楽に耳を澄ましました。
力強く、激しい曲調。
情熱的でありながらも、底辺には哀しさが潜んでいるような奥深さもあります。
まるで複雑な人生そのものを表現しているかのような大人の音楽。
やがて、まだ書き始めていないというのに、街並みの景色や、主人公が住むボロアパートの外壁が浮かび上がってきました。
これだっ。
急いで、その女子選手が使用していた曲を調べ、すぐにその作曲家のアルバムを購入しました。

約半年後、やっと原稿がアップし、編集者に渡しました。
編集者が読んでいる間、こちらは束の間の休息を楽しみます。
この期間中は、タンゴは一切聞きません。
作品から自分を切り離すためには、執筆中にずっと聞いていたタンゴを耳にしないのが一番。
それでもしばらくは、耳の中にはタンゴが響いているような錯覚を感じ続けます。
タンゴが完全に脳から出て行ってくれるまで、1週間ぐらいかかります。
タンゴが消えると、私の世界はようやく1つになります。
それまで、現実世界と、作品世界の2つの世界を行ったり来たりしている感覚だったものが、現実世界の1つだけになるのです。
こんな風にして、音楽の力を借りて、作品を書き終えます。
それなのに、ほかの方の小説を読む時には無音にしています。
本に集中したいので、読む時には、音楽を邪魔に感じるのです。
なんちゅう我が儘とも思いますが、皆さんはどうですか?
小説を読む時、音楽を聞きながらが好きでしょうか?
それとも、無音派でしょうか?
なんだかアンケートを取ってみたい気がしてきました。

アレルギー

  • 2014年03月20日

自分に牛乳アレルギーがあると発覚したのは、去年の晩秋の頃でした。
遅延型フードアレルギーというもののようで、口にしてから7~72時間後に症状が出るというのんびりしたアレルギーのせいで、気付かずにいる人が多いとのこと。
私もまったく気付かず、むしろ弱いお腹によかれと思って、毎日ヨーグルトや牛乳を極力取るようにしていたぐらいでした。
まさか、それが身体を痛めつけていたとは露知らず。
miruku
発覚したのが、晩秋だったので、そうだ、年賀状にこのことを書けば、一度で私のアレルギーを皆に伝えられるぞ、しめしめと、考えたのでした。
が、それは甘い考えでした。
誰一人として、私の年賀状に書かれた牛乳アレルギーの件を覚えている者はいなかった。
それで、食事をする場で、毎度毎度牛乳アレルギーの説明をするはめに。
軽度のため、自分で食べる際に、牛乳を使っていなさそうなメニューを選ぶといった程度でOKですし、隣で牛乳を使ったものを食べていられてもなんら問題はないのですが、私の皿に、ほいっとピザがのせられてしまったりするのです。
しょうがないので、かくかくしかじかと説明すると、「ええ?」「そうなの?」とまるで初めて聞いたような反応をします。
年賀状に書いたがなと言いたいところをぐっと我慢して、「そうなんだよぉ」と笑顔を作って対応。

年賀状ではダメでも、私の口から直接牛乳アレルギーについて聞かされたなら、皆に記憶して貰えただろうと思っていたのですが・・・何度も同じ目に遭うのです。
デジャブですか? と言いたいほどに。
前回食事した時に、散々説明し、「大変だねぇ」「じゃあ、バターもダメなの?」などと感想や質問を口にしていた人が、クリームチーズパスタを私の皿に取り分けてくれちゃったりする。
はぁ。
他人の食物アレルギーのことなんて、覚えていられないんですね。
「私は遅延型の牛乳アレルギーなので、自分で食べられるものを選び、自ら皿に取りますので、どうぞお気遣いなく」と書いた紙でも、首から下げておくべきなんでしょうか。

アレルギーが発覚する前、私自身は他人のアレルギーを記憶していただろうか、と振り返ってみると・・・○○さんは、魚がダメだった、○○さんはとうもころしがダメで、○○さんは卵がダメだったな、と、そこそこ覚えていました。
ってことは・・・私が記憶して貰えるほどの重要人物ではないからってオチなんでしょうか。
なんだか哀しくなってきたので、今日はこの辺で。

「我慢ならない女」の発売

  • 2014年03月17日

単行本「我慢ならない女」が発売になりました。
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「嫌な女」という作品で、装画と装幀をお願いした方々に、今回また作っていただきました。
個性的でなおかつ品のある装幀になったと思うのですが、いかがでしょうか?
装幀は編集者がデザイナーさんたちと打ち合わせを重ねて作成していくので、私は大体の方向性程度しか知らないでいることがほとんどです。
ある日、ラフ案がメールに添付されてきます。
どれどれと期待して開くと・・・ワオ、といったことも無きにしも非ず。
このラフ案というのは曲者。
あくまでも「こういった感じでいきますよ」といった段階のもの。
最終的なものではないとわかってはいても、「これでいいのぉ?」と不安に襲われることもしばしば。
しかし、これが本番に近づいていくにつれ、当然ながら完成度は上がりますし、色が付けられると、また受け取るイメージもすっかり変わったりします。
この最終ゴール地点を、ラフ案の段階で予想できればいいのでしょうが、素人の哀しさ。なかなか想像しきれません。
それで、ラフ案から最終本番までの間、どうなの? 大丈夫なの? という心配ばかりすることに。
最終的なデザインを見て、そうか、こういう風にしたかったのかと納得し、さすが、プロだなぁと感心するのです。

小説の執筆途中で、一度拝見したいと編集者から言われることが、たまにあります。
装幀でいえば、ラフ案を見たいと言われているわけですね。
そんな時、私は丁重にお断りしています。
自分は装幀のラフ案を見る癖に、編集者から請われたら、それを断るという、ヤな女なんです、私は。
推敲をしていくうちに、今、赤く塗っている部分を真っ青に変える可能性がかなり高く、仮に今、読んでも、最終的なものとまったく違う話になっている場合もありうるので、読んでも時間の無駄ですからと、説明して納得してもらうようにしています。
納得したのかどうかは不明ですが、そうですか、わかりましたと編集者は言って帰っていきます。
さぞかし、心配だったでしょうに。

「我慢ならない女」も、私を信じて、おおらかに待ってくださった編集者のお陰で、自分の思うままに小説と向き合うことができました。
有り難いことです。

「我慢ならない女」では、女性小説家が主人公です。
ぜひ、彼女の不器用なまでの一途な生き様を、味わってみてください。

怒りの声

  • 2014年03月13日

それは、日曜の午後でした。
近所にちょっとした用事があり、家を出ると、女性の怒声が聞こえてきました。
進行方向に、七十歳を超えていると思われる女性が、「それは違う。それは違うよ」と大声で言っています。
週末の自宅近くは大変静かで、そのせいで、女性の声はそこら中に響き渡っていました。
女性が怒りをぶつけている相手は・・・こちらも七十歳を超えていると思しき男性。
夫婦でしょうか。
この男性は、そんな風に怒りをぶつけられることに慣れているような風情で、反論もせず、その女性に目を向けることもなく、ただ歩き続けています。
男性は前方を見据え、無表情。
そこには、困ったり、不快そうだったりといった表情さえありません。
まるで女性が存在していないかのような態度。
隣の女性は、大声でなにかについて怒りながら、身体を男性に向けているので、横歩き状態。
女性のその様子からは、男性に立ち止まり、自分の話を聞いて欲しいように思われましたが、男性の足が止まる気配はありません。
急ぐでもなく、女性の速度に合わせるでもなく、マイペースで歩き続けています。
ikari
夫婦だとして、年齢から推測すれば、長く苦楽を共にした二人のはず。
イメージ的には、互いに嫌いなところはあっても、長年一緒に時を過ごしていくなかで、諦めとか、許容するとか、理解するとかいった気持ちに達し、いい塩梅に熟成されていくのが老夫婦と思っていました。
ところが、ところが。
件の二人を見る限り、二十代のカップルと変わらない。
それが、やけに新鮮に感じられました。
いったいぜんたい、なにがあなたをそれだけ怒らせているのだろうかと、耳を欹ててみましたが、二人の背後にいた私には、単語しか入ってきません。
そこで、二人を追い越し、前に回り込むことに。
早足で、耳に全神経を集中させて二人の横を通過し、前に到達。
と、二人は突然、進路を右に取り、私とは違う方向へと進んでしまいました。
結局、二人の横を通過した前後の短い間しか、女性の声を聞きとることはできませんでした。
そこで拾えたのは「仮に○○さんが、そうだったとしてみなさいよ」という言葉だけ。
これじゃあ、どういった類の話なのか、皆目見当が付きません。
二人のそれからが気になってしょうがないので、こんな激しい感情をぶつけ合う老夫婦の物語でも書いてみようかと、そんな気になってきました。

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