美容院

  • 2023年09月07日

実は私、もう何年も美容院に行ってません。
自分でカットしています。

元々美容院が好きじゃなかった。
鏡の前に座らされて、自分の顔を見続ける苦痛。
美容師さんと中身のうっすい会話をする苦痛。
髪を引っ張られる苦痛。
と、ヤなことばっかりだから。

それでも行かねばならないので、渋々行くのですが、これぞという美容師さんにはなかなか出会えない。
たまに、あぁ、この人ならと思うと、結婚や出産などで退職してしまう。
そこでまた美容院探しを開始。
この繰り返し。
これまでどれくらいの数の美容院に行ったことか、数え切れないぐらいです。

大学生の頃にふらりと入った美容院。
ダンスミュージックが、煩いよというぐらいの大音量で掛かっていました。
もうその時点でこの店は違うと確信したのですが、すでに受付の女性と目が合っていたため、しょうがなく「カットをして欲しいんですけど」と口にする。

すると「先生のご指名は?」と受付スタッフが聞いてくる。
今、先生と言った?
私をなにかの先生と間違えている?
と思った私は「はい?」と聞き返しました。

スタッフは「先生のご指名は?」と同じ言葉を繰り返す。
大音量のせいで聞き間違えたのではなかったようです。

そして考える。
もしかするとこの店は自分のところの美容師を先生と呼んでいて、客に対しても、先生と呼ばせようとしているのかもしれないぞと。

私は「初めてなので指名というのはありません」と答えました。
するとしばし手元の書類に目を落とした後で、スタッフは言いました。「それでは〇〇先生が担当しますので、しばらくそちらでお待ちください」と。

自分の店のスタッフを、先生と呼ぶことに徹底している。
客が美容師さんを先生と呼ぶとか、ニックネームで呼ぶとかは自由なので、全然構わないのですが、店側が自分のスタッフを先生と呼ぶのは大きく間違っていると思いながら、大学生の私はソファで自分の番になるのを待ちました。
そこには二度と行きませんでした。

「たそがれダンサーズ」には仲間二人で美容院に行くシーンがあります。
自分の見掛けには、まったく頓着してこなかったオッサンたち。
チームで踊ることになった彼らは統一感や、見た目に注意を向けるようになっていきます。
そこで意を決して美容院へ。
一人では心細いけれど、仲間と一緒なら心強い。
鏡の前に並んだ二人は、昔話をしながら楽しい時間を過ごします。
それまでとは違う人生の楽しみ方を知っていく二人を、描いたシーンになりました。

引退

  • 2023年09月04日

今夏はスポーツがてんこ盛り。
選手たちの活躍に声援を送る日が続いています。

その試合に立つまでには、すべての選手に紆余曲折があったはず。
そしてようやくそこに辿り着いた。
その気持ちや如何ばかりか。

中にはその試合を最後と考えている選手もいるでしょう。
優勝して、引退の寂しさを超える喜びを得られることもあるでしょうが、そう上手くはいかないもの。

負けて試合終了。
同時に選手生活も終了となるケースは多い。
こんな時に選手の胸に去来するのは、もっと出来たはずという後悔でしょうか。
それともやり切ったという満足感でしょうか。

引退はスポーツ選手だけでなく、多くの人に訪れるもの。
会社員が定年になるとか、事業を畳む決断をしたとか、次の人に事業を譲ることにしたとか。

生涯現役の人もいるでしょうが、そうはならないケースも多い。
数年後に自分の引退時期が来ると悟った時、引退後の世界を楽しそうだと思える人は、どれくらいいるのでしょう。

私はそもそも、引退時期がはっきりしていない作家という職業なので、引退についてはほとんど考えないのですが、友人たちの中にはとても真剣に引退後を想像し、どうしようかと悩んでいる人がいます。

会社員のA子は、定年後のことを決めかねているそうです。
引退するか、再雇用して貰うか、全く別の仕事を探すか、それとも働くのは止めて、ボランティアなどの社会貢献をするか、趣味三昧の日々を送るか・・・迷っているそうです。
また自分だけでなく夫が引退した場合、24時間自宅で二人だけで過ごすことになると考えると、不安しかないとも言っていました。

もしこれまでとは違う世界に自分の居場所を見つけられたなら、引退後も楽しそう。
小説「たそがれダンサーズ」では、すでに引退して居場所を探している人、会社員生活のゴールテープが見えて、それから先をどうしようかと焦っている人、後継者へのバトンタッチに、不満をもっている人などが登場します。
引退した後のことで迷っている人たちに、ぜひ読んで頂きたい作品です。

お弁当を

  • 2023年08月31日

基本的に1日3食自炊です。
でも時々そうじゃない日も。

先週は打ち合わせが終わったのが正午頃。
自宅の最寄り駅に着いたのは午後1時前でした。
こんな時には駅前のスーパーへ。

店に入ると弁当売り場を目指して直進します。
以前この店を昼時に訪れた時は、弁当売り場がごった返していたので、戦闘モードに火を点けながら向かったら・・・閑散としていました。
暑いので昼時に買いに来る人が、少なくなっているのでしょうか。

以前は客と客の隙間から置いてある弁当を覗き見て、どれにするかを決めるといった状態でした。
そしてこれにしようと決めると、客と客の隙間に腕を差し込むタイミングを計ります。
大縄跳びの中に入るタイミングを、探している時のような感覚。
今だと思う瞬間に腕を差し込み、目当ての弁当を摑むと持ち上げていく。
持ち上げていくスピードは速くても遅くてダメ。
前にいる客が、後ろの私が弁当を持ち出そうとしているぞと理解し、身構えるだけの時間を与えてあげなければならない。
弁当を前の客の頭より高く持ち上げてから、後ろに引く。

こんな風にして弁当をゲットしたものでしたが、この日は客が少ないため、ゆっくりと品定め。
お腹がとても空いていてトンカツ弁当を選択。
自宅に戻りガツガツ食べる。
朝練終わりの男子高校生かっていうぐらいに。

文庫版が発売されたばかりの「たそがれダンサーズ」には、登場人物の1人が、やはりガツガツと弁当を食べるシーンがあります。

私は無自覚なのですが、作品の中に食べるシーンが割と多いと、編集者から指摘を受けたことがあります。
どんなメニューを選ぶのか、誰と、どう食べるのかというのは、その人物の日常を描く中で、重要なものであると考えているせいかもしれません。

「たそがれダンサーズ」には、仲間とラーメン店で食事をするシーンもあります。
社交ダンスのレッスンを終えた後だから、オッサンたちも食欲がモリモリ。
ラーメンだけじゃなくビールや餃子まで、つい。
でもそこはオッサンたち。
それぞれが持病の薬をテーブルに出して、飲み忘れをしないようにしています。

人生経験も年齢も、環境も違うオッサンたちが、仲間と「お疲れさん」と言い合いながら食べるラーメンの味は格別で、そこで過ごす時間がとても大切なものになっていく・・・そんなシーンにしたいと思って描きました。

趣味

  • 2023年08月28日

趣味はお金がかかるものです。
以前やっていた囲碁は比較的リーズナブルでした。
レッスン代は。

しかしながら通常のレッスンだけでは付いていけない。
だから初心者向けの本を買う。
でも上達しない。
それでまた別の本を買う。

本の購入だけでは終わらない。
ネット上の囲碁クラブの会費。
そこが主催している検定試験の受験費用。
その賞状と登録費用。
ネット会員同士が対局出来る別のクラブの会費。
ちっとも勝てずつまらないので、憂さ晴らしのためのソフト購入代。
ネットでの個人レッスンの利用代金・・・と、才能無しと見切りをつけて足を洗うまで、結構な額を囲碁に注ぎ込みました。

が、私のこの散財はまだ可愛い方らしい。
友人A子がやっているフラダンスでは、発表会の度に揃いの衣装だの、先生への心づけだの、参加しなくても支払うことになっている打ち上げ代だので、私より一桁高い額が必要なんだとか。

友人B子がやっているのは日本舞踊。
B子の口から、私が囲碁に使った額より、二桁高い額が必要だと聞いた時には「ヒー」と悲鳴を上げてしまいました。

出来たてほやほやの文庫「たそがれダンサーズ」で登場人物たちが始めるのは社交ダンス。
さて、この趣味はどうでしょう。
これもやはりそこそこの費用が掛かるようです。

社交ダンスの大会に取材に行った時のこと。
会場内には衣装を販売するお店が出ていたので、覗いてみました。
プリンセスのようなドレスや、セクシーさ全開の衣装がずらり。
羽やスパンコールなど、キラキラしたものがどの衣装にも付いています。
値札を見ると・・・「あぁ、やっぱりいいお値段ね」と言いたくなるような金額。
すると隣にいた編集者が教えてくれました。
「桂さん、値段を一桁見間違えていませんか?」と。
ん?
値札をよーく見たら、私が理解した額より一桁高かった。
思わず、ぎゃっと叫びました。
そして「よく私が見間違えていると分かったね」と言ったら、「あまりに冷静に見ていらっしゃったので、これは桁を見間違えているっぽいなと読みました」とのこと。
ご明察。
社交ダンスもそこそこお金が掛かるようです。

仲間たちと一緒に踊る楽しさを覚えた、社交ダンス初心者のオッサンたちが活躍するのは、小説「たそがれダンサーズ」。
多少お金は掛かっても、そこで得る楽しさは何物にも代えがたい。
そんな彼らにどうぞご声援を。


Copyright© 2011-2025 Nozomi Katsura All rights reserved. No reproduction and republication without written permission.

error: Content is protected !!
Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.