みかん
- 2011年08月11日
ハウスものでしょう。
夏まっさかりのこの時期に、ミカンを手に入れました。
大変甘くて、美味しかったです。
以前、ある小説の中で、主人公が新幹線に乗るシーンを書きました。その季節は夏でした。
「車内にミカンの匂いが広がった」と書いたところ、校正者から、「ミカン」の前に、「夏」という文字が抜けているのではといった、指摘がありました。
私はその指摘を却下し、「ミカン」のままでと差し戻しました。
原稿は数回にわたって、私はもちろん、編集者や校正者といった複数の人たちで、チェックをします。
二度目のチェックの時、別の校正者から、まったく同じ指摘がありました。「ミカン」の前に「夏」という文字が抜けているのではと。
原稿に書かれた、その校正者の文字の横に、私は書き始めました。
これは、冷凍ミカンなので、年中食べるもので・・・と書いたところで、手が止まりました。
もしかすると、冷凍ミカンは、今、ないのかもしれないと、気が付きました。
ネットで調べてみると、ごく一部の駅などで売られてはいるようですが、あまりポピュラーな食べ物ではなくなっていました。
おやおや。
隔世の感に、ため息です。
私が子どもの頃は、列車の移動中には、駅弁を食べて、お茶を飲んで、デザートは冷凍ミカンというのが、定番でした。
キオスクなどで、赤いネット状の袋に4~5個程度の冷凍ミカンが入れられたものが売られていました。ミカンをただ冷凍しただけのものでしたが、それだけで旅の途中という感じがして、テンションが上がりました。列車内に座っていれば、必ずといっていいほど、冷凍ミカンの匂いが漂ってきたものでした。
全部を食べ切れず、残ってしまった冷凍ミカンは、ハンカチかなんかで包んでバッグの中に入れておきます。旅先で、あるいは旅館についてから、すっかり解凍して、ただのミカンとなったものを食べるという経験も何度もありました。
旅の思い出の隅っこには、必ずといっていいほど冷凍ミカンがあったものでしたが、どうやら、いつの間にか、定番の玉座からは降りていたようです。
そう言えば、私自身も、最後に冷凍ミカンを買ったのは、いつだったかと考えると、もう記憶を辿ることすらできません。
さてさて、校正者の指摘通りに、「夏ミカン」とするかという点に話は戻ります。
車内で夏ミカンを食べるという人も、いらっしゃるとは思いますが、その重さ、嵩を考えると、それはなかなか勇気のある行動です。
ここは、「ミカン」としておいて、「冷凍ミカン」を想像していただいてもいいし、ハウス栽培の普通の「ミカン」を想像していただいてもいいようにしておこうという結論に至りました。
さらっと読み飛ばされてしまうような細部にも、こんな風に、あーだこーだと意見を出し、決めていくという地道な作業を何度も重ねて、小説は完成していきます。