方向音痴
- 2011年08月15日
重度の方向音痴です。
初めて行く場所へ、迷わずに辿りつけたことはありません。
徒歩の場合は、歩ける範囲で迷っているだけなので、それほど大事にはならずに済むのですが、車の場合、広範囲になる分、大変な目に遭います。
湘南の海沿いの道を車で走っている時でした。
次の仕事まで時間がぽっかり空いてしまったので、ちょっとドライブをといった気持ちで、車を走らせていました。
やがて、海沿いの道に飽きてきた私は、ハンドルを左に切って、内陸方向へ行くことにしました。
しばらく走っているうちに、道はどんどん狭くなっていき、辺りの緑が濃くなっていきます。
心細さ満点になりましたが、車を切り返せるスペースはなく、山道のような急こう配を上っていかざるをえません。
そもそも、ここは車が通ってはいけないのでは、と思うほどの道幅の狭さ。ガードレールはなく、ちょっとズレてしまえば、崖から落ちてしまいかねません。
私は今、遭難している――。
そう思った途端、目に涙が滲んできます。
やがて、パニック段階へと移ります。
なんとかしなくちゃとは思うものの、どうしたらいいのかわからなくて、叫び出しそうでした。
その時でした。
人の姿を発見したのです。
私は車を止めてすぐに降り、彼らの元へ走りました。
彼らは測量士の男性3人組で、車から飛び下りてきた私を見て、驚いた顔をしていました。
私が迷ってしまったことを話し、戻りたい場所の名を口にすると、「相当、遠いですよ」と言われました。
そしてその人は、この道を右に曲がって、川にぶつかったら左へ・・・と、説明を始めました。
その説明はとても長く、「あぁ、そんなに覚えられない」と思った途端、一旦引っ込んでいた涙がまたぞろ出てきました。
すると、説明中の人の腕を、別の測量士が、ツンツンとつつきました。
そして、「ここまで迷い込むぐらいなんだよ。普通の人だって、説明を聞いただけじゃ、なかなか難しい道なんだから、絶対、無理だろう」と意見を口にしました。
その通り。
私はなんとか涙をこぼさないよう、必死でこらえながら、呆然と3人を見つめていました。
すると、3人の測量士たちが、アイコンタクトをしたのがわかりました。
そして、彼らはなにも言わず、測量に使っていたと思われる機材を、彼らの車に詰めだしました。
私は彼らの様子を、ぼんやりと眺めていました。
すべての機材を車に詰め終えると、私に言いました。「僕ら、先に走りますから、ついてきてください」と。
私は途端に元気を取り戻し、「はいっ」と大きな声で返事をすると、自分の車に戻りました。
そして、彼らの車の後をついて走ります。
道は細く、片側は崖なので、ビビってしまいスピードを出せません。
そんな私を気遣って、前の車は、ちょいちょい停まって、待っていてくれます。
そうやって、私が戻りたいといった場所まで、誘導してくれました。
ほっとした途端、また涙が出そうになりました。
有り難くって、有り難くって、この感謝の気持ちをどう、言葉で表現したらいいんだろうと考えていると、後部座席に座っていた1人が、私に向かって、人差し指を下に向け、「ここだから」と合図を送ってきました。
私は運転席で、大きく頭を何度も下げて、「わかった」と返事を送ります。
前の車がウインカーを点滅させて、右折すると伝えてきました。
さっきの場所に戻るんだなと思っていると、運転席と助手席の窓から、手が出てきました。その手が、「バイバイ」と言うように振られます。後部座席の人も、バックドアガラス越しに、両手を揺らしていました。
私は窓を開け、手を出して、大きく振りました。
本当に、本当に、ありがとうございました。
そう、心の中で言いながら。
方向音痴のせいで、随分と大変な目に遭ってきましたが、その都度、たくさんの人の親切に助けられてきました。
ありがとうございます。