山形のコンビニ
- 2011年09月29日
山形のとある駅でのこと。
駅弁を買おうと、駅構内のコンビニに入りました。
すると、女性店員の大きな声が聞こえてきます。
「いらっしゃいましたー」
えっ? なんで過去形?
びっくりした私は、しばし立ち尽くしました。
店に入り、「いらっしゃいませ」と言われることはあっても、「いらっしゃいました」と過去形で言われた経験はありません。
たとえば、訪問の約束をしていた場合に、その時間に到着した時、店員が店員に向かって、「○○様がいらっしゃいました」と情報を伝達する。こうしたケースでは、「いらっしゃいました」と過去形を耳にすることはあります。
しかし、今回は、ぶらりと立ち寄ったコンビニでしたから、首を長くして私を待っていたとは考えられず、何故、過去形で声を掛けられたのか――不思議です。
山形はそういう風習なのでしょうか?
疑問を抱えたまま、私は弁当が並ぶ棚へ足を運びました。
しばらくして、自動ドアの開く音が聞こえてきました。
くるか、過去形、と身構えていると、案の定「いらっしゃいましたー」とのびのびとした声が。
もしかすると、山形では歓迎の言葉を過去形で言う習慣があるのかもしれない。とすると、「ありがとうございました」はどうなるのでしょう。
は、はやく確かめたい。
逸る気持ちを押さえつつ、弁当を適当に選び、レジへ。
会計を済ませて、レジ袋を受け取った瞬間、きました。声が。
「ありがとうございます」
わっ。こっちは現在形。
不思議の国、山形。
コンビニを出た私は、しばらく呆然としていました。
やがて、今の、過去形と現在形の使い方は、山形の風習なのか、はたまたあの店員のオリジナルなのか、という疑問がわいてきました。
ふと、前を見ると、だんご屋が。
確かめるべきでしょう、やはり。
私はだんご屋の自動ドアセンサーにタッチしました。
くるのか、過去形。
と、期待して、耳の穴を最大に開いて待ちましたが、現在形も過去形も聞こえてきません。
一人しかいない女性店員は、接客中で、私に声を掛けてはこなかったのです。
がっかりしたものの、その接客が終わるのを静かに待ちました。
そして、釣りと包みを客に渡した店員が、ようやく私に顔を向けてた瞬間――「なににしましょう」との声が。
んー、そうきたか。
なかなか、期待通りの展開には進まないもんだと、心の中で吐息をつき、だんごを注文。
店員が包んでくれる間、「いらっしゃいました」の声が聞きたいばっかりに、ほかの客が入ってきてくれないだろうかと、私は自動ドアを睨んでいました。
しかし、願いも空しく、客は訪れず、会計をすることに。
そこで、さっきの客が帰る時、店員は「ありがとうございます」と言ったのか、それとも「ありがとうございました」だったのか、すっかり聞き忘れていたことに気付きました。
よっしゃ。
せめて、これを確認しようと、気持ちを切り替えました。
釣り銭を私に差し出しながら店員が口を開きました。
「○分の新幹線ですか?」
「えっ? あぁ、はい、そうです」
「これから、東京に?」
「はい」
「お気を付けて」
「……はい」
――確認できず。
だんご屋を出るため、ドアの前に立った私は、未練たらたらで、店員を振り返りました。
すると「お気を付けて」の声が。
思うようにいかないもんですね。
結局、確認したかったフレーズをだんご屋で耳にすることはできませんでした。
もう一軒、入って、確認したい気持ちは山々だったのですが、新幹線の到着時間が迫っていたので、諦めざるをえませんでした。
「いらっしゃいましたー」は山形の風習なのか、そうではないのか、謎は謎のままになっています。