メロン
- 2011年12月19日
メロンは私にとって、憧れの果物でした。
高価でしたから、滅多なことでは口にできないフルーツだったのです。
小学生時代のある日、近所に住む、男の子の家に遊びに行ったところ、オヤツが私にも振舞われました。
それが、な、なんと、メロンでした。
私は「今日、誕生日なの?」と男の子に尋ねます。
すると、「なんで? 違うよ」との答え。
なんでもない日に、メロンを食べる家があるということに、びっくり仰天した私は、家に帰ると、すぐに祖母に報告しました。
当時の私は、多くの時間を、祖母の家で、二人っきりで過ごしていました。
興奮気味の私が、オヤツにメロンが出たと話すと、ソリティアをしていた祖母は、トランプの手を止め、「そりゃあ、大金持ちだね」と、一緒に感動してくれました。
そんな時、国語の授業で、作文を書かされました。
どんなテーマを指定されたのか、もう覚えていないのですが、私はその衝撃的大事件を原稿用紙に綴りました。
授業参観の日になりました。
先生が、「この間、書いてもらった作文の中から、よくできたものを、皆の前で読んでもらいます」と宣言し、私の名が呼ばれました。
私は、背後にいるであろう母の視線を意識しながら、よくできたと言われた作文を読みだします。
フツーの日に、オヤツがメロンだった衝撃。しかもそれは、繊細なガラスの器にのっていたこと。しかも、食べ易いように、カットされていたこと。自分の家では、メロンは、特別な日に、各自が先割れスプーンで、掘って、掘って、掘りまくって食べること。穴が開きそうなほど、掘り進むと、きゅうりと同じような匂いがすること・・・。
読み終わると、教室には大きな拍手が。
どうよってな思いで、鼻高々で、振り返ると、鬼の形相をした母が。
あれっ?
なんで?
てっきり喜んでくれていると思った母は、間違いなく怒った顔をしていました。
自宅に戻ると、なんであんな作文を書いたのかと、母にこっぴどく叱られました。
うちがビンボーだということが、クラス中に知れ渡ってしまった。明日には、学年中に知れ渡るだろう。明後日には学校中に知れ渡ってしまう。あんな恥ずかしいことを、人前で話すもんじゃないし、書くもんじゃない・・・。
これが、母の言い分でした。
そうか、うちは、ビンボーだったのか、と初めて現実を知らされた、出来事となりました。
その後、生活環境が劇的に好転するということもなかったため、メロンへの憧れは、ずっと続き、現在も、その存在は特別です。
アイス、ジュース、スイートなどで、味を選択するシチュエーションは結構あります。
メロン、ストリベリー、バナナ、抹茶・・・こういった中から、味を1つ選ぶ時、私は決まって、メロンを選んでしまいます。幼い頃に沁みついてしまった、メロンへの憧れが、そうさせてしまうようです。
それにしても・・・授業参観で、私の作文を選んだ、教師の判断って、どうよ? との思いが胸を離れません。