瓶オープナー

  • 2011年09月08日

「男が欲しいと思う瞬間は?」
といったお題で、7、8名で女子トークをしていたのは、今から十年以上前のことです。
「ジャムの瓶が開かない時」と答えた私は、拍手喝采を浴び、その場にいた女子たちから、賛同を得ました。

 ジャムの瓶は、大抵なかなか開きません。
開けてたまるかといった頑なさです。
ジャムの瓶を開けるのは、その用途からいっても朝食の時が多くなります。
朝っぱらから、瓶と格闘するため、歯を食いしばるというのは、いかがなものかと常日頃から思っていました。
そんな時、見つけました。
瓶オープナーという物を。
生活便利グッズを扱うネットショップが、瓶オープナーなる物が存在すると教えてくれました。
早速購入したところ、届いた品物は、結構な大きさで、しかもずしりとした重量です。

まるで、真面目なマシンのような佇まいです。
説明書にある通りに、瓶の蓋の上にのせ、スイッチを押すと、ガガガッと大きな音が。
思わず飛び上がりそうになるほどの、大きな音です。
心配しながら覗き込むと、UFOキャッチャーで物を挟む部分に似ているところが、動いていました。
その動作音でした。

それは、やがて瓶にぶつかり、しっかりと抱きかかえるような格好になりました。さらに大きな音がして、今度は、その内側にあった、やはりUFOキャッチャーで物を挟む部分のようなところが動き出します。それが、蓋にぶつかると、やかり抱き締めるような格好になります。
と、音が止みました。
ん? 終わり? と思っていると、それまで以上の大きな音がし出して、瓶を押さえたUFOキャッチャーと、蓋を押さえたUFOキャッチャーが左と右に、捻り動作を開始しました。
ンガガッ、ンガガッと、必死さが加わったような音色に変わりました。
思わず、頑張れ、と声を掛けたくなります。
すると突然、ポンと軽い音がして、それまでの捻り動作がゆっくりと解除されていきます。
そして、唐突に動きと音が止まりました。
オープナーをそっと持ち上げてみると、瓶の蓋は開いていました。
ネットで商品説明を読んだ時には、もっと、しれっと、都会風に開けてくれるとばかり思っていましたが、実際は随分と泥臭い感じです。
その武骨さが、味といば、味でしょうか。

 記憶を辿り、以前女子トークをした時のメンバーのうち、思い出せた数人に、瓶オープナーの情報をメールしました。
そのうちの1人から、早速購入したとメールが入りました。
そのメールには、音は煩いけど、なかなかの優れ物だとした後で、「これで、もう男が欲しいと思う瞬間がなくなってしまった」と半ば残念そうに綴ってありました。

洗濯機

  • 2011年09月05日

今の住まいに引っ越したばかりの頃。
ブザーが鳴る度に立ち上がり、さて、今度はなんだと身構えたものです。
それ以前の住まいでは、訪問者が来た時にブザーが鳴る程度で、いたって静かな日常でした。
なにかが終わった時に、ブザーで合図をしてくれるような家電品が、少なかったものと思われます。
それが、現在の住まいに越してきてみると、あっちから、こっちから、ブザーの音が聞こえてきます。賃貸マンションに備え付けの家電品が、合図を送ってくるのです。
ブザーだけではありません。
声まで聞こえてきます。
「あと5分でお風呂が沸きます」とアナウンスされた時には、「恐れ入ります」と、深々と頭を下げそうになりました。

 そうは言っても、ブザーの音にも慣れていくもんです。
それぞれの家電品が出す音の違いも、わかるようになりました。
そんな折、いつもと違う音が耳に入ってきます。
あぁ、また故障かと、一気に気持ちは塞ぎます。
たとえば、洗濯機などは、4年の間に、6回故障しました。

私の物であれば、即、買い替えになるところですが、生憎、洗濯機はマンションの備え付けの物で、そうすることはできません。
故障すると、まず、マンションの修理受付センターというところに電話をします。すると、そのセンターの人はデータを調べ、オーナーを探します。そして、そのオーナーが、そういった業務を別の会社に委託しているとわかります。そこで、その会社に連絡を取ってくれます。事情を説明し、オーナーに連絡を取るよう依頼します。それから、その会社がオーナーに連絡を取ります。借主が洗濯機が故障したと言っているので、修理をしていいかと問い合わせます。OKが出ると、その情報は、それまでの流れとは逆に遡っていきます。センターの人まで戻ったところで、ようやく、洗濯機のメーカーに修理依頼の連絡をしてくれる・・・といった気の遠くなるような手順を踏まなければなりません。
さらに、そこからメーカーの修理担当者が直しに来てくれる日にちを決めるわけですから、故障してから訪問実現まで、10日ぐらいかかってしまいます。
10日――。
長いです。
洗濯機が故障する度に、「引っ越そうかなぁ」と考えてしまいます。
洗濯機がよく故障するからというのが、引っ越しの理由になる人って、いるでしょうか。
いる、と私は思っています。

「恋愛検定」発売

  • 2011年09月01日

小説「恋愛検定」が発売になりました。

 「恋愛」をテーマに小説を書いたことはなく、また、タイトルにこの2文字が入った作品も初めてのことです。
ちょっと小っ恥ずかしいです。

 書店さん向けのポップを作っていただきました。

印刷物です。
出版社さんによっては、手書きのポップをと、仰るところもあります。
書くのは全然構わないのですが、字に自信がないため、却って売上が落ちてしまうのではと不安になってしまいます。
そこで、どなたか字の上手い方に代筆していただきたいと申し出てみるのですが、「下手でもいいんです。気持ちが入っているかどうかです」と返り討ちに遭ってしまいます。
気持ちを、字にどう込めたらいいのだろうと考え出したら、もう、ラビリンス。
長い時間、ポップ用紙を見つめ続けることになります。
何度も何度も下書きをして、いざ、本番。
すると、プレッシャーという名の悪魔が、右手に乗ってきます。
その重さで、右手が、思うように動きません。
自分の手じゃないような気がするほどです。
元々、上手じゃないのに、悪魔が右手に乗っているわけですから、いつも以上にへなへな文字になります。
一生懸命書いた割には、残念な結果になったポップを見て、ため息をつきます。
これを受け取った書店員さんは、どうするだろうと考えてみます。
私なら、迷わず捨てるなと、確信をした途端、「捜さないでください」と置手紙をして、旅に出たくなってしまいます。
今回のは、そうした残念なポップではありません。
デザイナーさんが制作した、ちゃんとした物ですから、書店に置いていただけるのではないかと、期待しています。

腰枕

  • 2011年08月29日

人間ドックで、軽度のヘルニアを指摘されました。
そう言われると、急に腰のことが気になりだします。

 一時期、なにを血迷ったのか、エステに通っていたことがあります。
施術中は、ベッドで仰向けになっていなくてはいけません。
そのじっとしている約1時間が、腰には堪えました。
ベッドから起き上がる時には、「イタタっ」と声が出てしまうぐらいに。
結局、そこのサービスには満足していたものの、腰の辛さに気持ちが折れてしまい、すぐに行かなくなってしまいました。

 人間ドックでヘルニアを指摘されてみて、初めて、あれは、ベッドの硬さのせいではなく、私の腰のせいだったかと気が付きました。

 ふと、寝ている時の姿勢に問題があるのではないかと思い至りました。
なぜか、かけっこをしている途中のような格好で寝ている時があります。
普段、運動などまったくしない私が、寝ている時に、何故、走るポーズを取るのか、不思議でしょうがありません。
そんな不自然な格好で寝ていますから、腰が痛くなって、目が覚めます。
「イテテっ」と寝言を呟きながら、胸の近くまで上げていた片足を下ろしたことが、何度もあります。
バスタオルを丸めて腰の下に敷いたら、安定して、変なポーズを取ることもなくなり、腰への負担が減るのではなかろうかと考えました。
ところが。
朝、起きると、バスタオルは、ぺったんこになった状態で、足元近くに転がっていました。
そのぺったんこぶりから、長い時間、私に踏まれていたであろうことは想像できるのですが、いつから、足元に移動してしまったのかは、わかりません。
腰に手をあてて、その調子を探ってみましたが、いつもと違うのかどうか、よくわかりません。
その日の夜に、再チャレンジしてみましたが、翌朝、バスタオルはやはり足元付近にありました。
どうやら、バスタオルと私の間には、信頼関係は築けないようだと結論し、ネットで「腰枕」を検索してみることにしました。
すると、出てくる、出てくる。
世の中に、こんなに「腰枕」が存在していたとは。
今度は、あまりに種類がたくさんあって、どれがいいのか、困ってしまいます。
あきらかに形状が違うのに、説明文を読んでいくと、どちらも腰に負担をかけない優れ物のように思えてしまいます。
こうなったら、一か八か。
柔らかいとしつこいぐらい謳っている「腰枕」を注文しました。

2日後に届いた段ボールケースが、やけにデカくて、ちょっと不安になりましたが、梱包材のせいだとわかり、ひと安心。
さっそく腰の下に敷いて、仰向けに寝てみると、身体が真っ平ら。
今まで生きてきて、自分の身体が「真っ平らになってるわ」と自覚したのは初めての経験でした。
横向きになってみると、ちょっと、その高さに違和感を覚えましたが、その高さのせいで、身体をねじらずに済みそうです。

これで、かけっこのポーズを取るのを押さえられるのではとの、期待も胸に宿ります。
その晩、試してみました。
翌朝、起きた時、「おっ」と声が出てしまいました。
いつもの鈍い重さが、ありません。
これは、当たりだったんじゃないだろうか――。
割と、買い物で失敗の多い私ですが、今回は、珍しく、当たりを引いたような気がして、ちょっといい気分になりました。
ベッドから下り、トイレに向かう途中、思わず、鼻歌が出て、小さな幸福感ににんまりしました。
しばらく、このまま使ってみようと思います。

ブログ内検索

  • アーカイブ


  • Copyright© 2011-2024 Nozomi Katsura All rights reserved. No reproduction and republication without written permission.

    error: Content is protected !!
    Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.