枇杷
- 2012年05月24日
小学生の低学年時分、仲良くしていた友人がいました。
同じ学校には行ってましたが、クラスが同じになったことは一度もありませんでした。
だったら、どうして知り合ったのか・・・今では思い出せません。
その子の家はとても居心地が良くて、私は入り浸っていました。
家には、たいてい友人と、お姉ちゃんがいて、お祖母ちゃんがいました。
ご両親は働いていたので、家には、その三人きりでした。
そこにちょくちょく私がお邪魔していたのです。
その家には立派な七段飾りの雛人形があり、それを飾る時には、友人とお姉ちゃんと、お祖母ちゃんと私の四人で行いました。
「そっと剥がすのよ」とお祖母ちゃんに言われた私たちは、お人形をくるんでいる薄紙を、そっと剥がします。
それはそれは大切に扱ったものです。
授業中には絶対にお目にかかれないほどの、集中力で。
その家には小さな庭があり、枇杷の木が一本ありました。
それを食べていい時期かどうかを判断するのは、お姉ちゃんでした。
じっと実を眺め、「まだ」とお姉ちゃんが言います。
私と友人は、もういいんじゃないかと、お姉ちゃんに訴えます。
食べたいんですね、一刻でも早く。
ですが、お姉ちゃんの決断は微動だにしません。
待てないのには、もう一つ理由がありました。
カラスです。
ヤツらも枇杷を狙っていて、今日こそは食べられると思っていた矢先に、カラスに食べ尽くされたしまったという苦い経験があったのです。
カラスに食べられるぐらいなら、完熟前でも構わない。
逸る私と友人とは違って、お姉ちゃんはいたって冷静。
もぐ許可を私たちにくれません。
ぶーたれながらも数日をやり過ごします。
そして、ようやくその日を迎えます。
お姉ちゃんがじっと枇杷の実を見つめた後、にかっと笑って「食べよう」と言う日が。
お姉ちゃんはどんどん登っていきます。
そして、てっぺん付近の実はお姉ちゃんが、真ん中あたりのは友人が。そして、運動音痴で登れない私は、下の方になっている実を食べ始めます。
美味しいのなんのって。
甘くて、ジューシーで。
私たちは、なにかに憑かれたかのように、ひたすら枇杷を食べ続けました。
熟すまで、待った甲斐がありましたし、カラスに勝ったぜ、という気持ちもあり、大満足の日でした。
再び味わってみたくて、時折、枇杷を買うのですが、あの時の美味しさを超えるものとは出会えていません。
もぎたてのものと比べたら、味が落ちるのは、当然といえば当然なのですが。