電車の中で

  • 2012年06月18日

7、8年ほど前になるでしょうか。
当時、自宅近くには大きな書店がなく、資料探しの時には、電車に乗り、東京駅まで出向いていました。
そこにある、大型書店に行くためです。
ラッシュ時を避け、午前9時半頃に、JR山手線に乗るようにしていました。

車内にいると、「想像していたのと、違うなぁ。もっと混んでるかと思ったよ」という声が聞こえてきます。
私は「きたな」と思い、声のした方へ顔を向けます。
そこには想像通りの初老の男性が。
なぜか、電車の中で、見ず知らずの人から話しかけられるという率の高い私は、こういう展開にすっかり慣れています。
まだ慣れない頃には、「なんで私に話しかけてくんのよ」とか、「恥ずかしいじゃないよぉ」などと、思ったりもしましたが、慣れというのは恐ろしいもんです。
やがて、「はい、きた」程度に思えるようになるのです。
車内で、話しかけられたのは、20回程度でしょうか。
その全員が、初老の男性。
そして、セリフもほぼ同じ。
もっと混んでいると思ったという感想を言ってくるのです。
どうも、地方出身者の方たちは、超ラッシュ時の映像をどこかで見て、それを記憶しているようなのです。
だから、覚悟してきたのに、車内はガラガラで驚いた。それを側にいる人と分かち合いたいといった流れになるようです。
女性だって、同じような感想を抱きそうに思うのですが、女は、そうした感想を見ず知らずの人に吐露しないのかもしれません。

その日は、ぼんやり窓外の景色を眺めている時でした。
「もっと、混んでるかと思っとったとに、意外と混んどらんねぇ」といった声が隣席から聞こえてきました。
顔を向けると、初老の男性。
ばっちり私と目が合います。
慣れたもんの私は答えます。「この時間だから、空いているんですよ。9時前だと、身体がぺったんこになっちゃうんじゃないかっていうぐらい、ギューギュー詰めですから」
「やっぱりそうなんと?」と目を丸くする男性。
「と」が多いので、「九州の方ですか?」と尋ねると、「おっ。お姉さんも、九州と?」と明るい声に。
「いえ、東京生まれの東京育ちです。言葉の感じが、九州かなと思いまして」
「そうとね?」
「ええ」
などど、すっかり会話。
「ご旅行ですか?」と尋ねると、男性が語り出したのは・・・。
なんでも、短大に通うため、東京で一人暮らしをしている娘さんと、突然連絡がつかなくなったので、今からマンションを訪ねるとのこと。
なにもなく、無事だといいけど。
と、思わず祈ってしまうのは、東京がもっている深い闇の存在を知っているからでしょうか。
電車が東京駅に到着し、私が立ち上がると、男性は「それじゃね」と言って、手を振ってくれました。

最近では、午前中は執筆タイムなので、この時間帯に山手線に乗ることはなくなり、こうした会話をすることはなくなってしまいました。
ちょっぴり残念な気がしています。

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