締め切り

  • 2013年01月24日

会社員時代、フリーライター時代、期日までに仕事を終えるというのは、必須要件でした。
これは、いつまでにやって貰えるのか、いつまでに渡さなくてはいけないのか、といったことをきっちりつめ、その期日がなんらかの事情で守られないような時には、大騒ぎになりました。
こうした取り決めは、会社員時代よりも、フリーライター時代の方が、より、大きな重しとなって、私に圧し掛かってきました。
会社員時代であれば、体調が悪ければ、同僚などに仕事を頼むということができました。でも、フリーランスでは、そんなフォローをしてくれる仲間はおらず、風邪をひこうが、インフルエンザにかかろうが、期日までに原稿を上げなくてはならないからです。
そもそも不安定なフリーライター稼業。
私のかわりは、いくらでもいます。
一度、約束した期日までに原稿を上げられなかったら最後、二度と仕事はこないとわかっていたので、必死で納期日に間に合わせました。

作家となってからは、腰を落ち着けて執筆したい。もう、あんな、時計をちらちら見ながら、締切に追われる日々とはおさらばしたい。
との思いはとても強く、複数の作品を同時進行で書いていくような、連載をいくつも抱えるといったスタイルは取っていません。
新作は一つだけ。
それだけに全力投球し、書き終えたら、次の作品を、といった具合。
こんな、マイペースを許してもらっているというのに、さらに、はっきりした期日を口にしないという卑怯な手も使っています。
「いつ頃、完成しそうですか?」と尋ねられれば、「暑くなる前には」「厚手のコートを着る頃には」などと、曖昧を通り越して、いい加減な答えに終始するのです。
会社員時代に、相手がそんなことを言った日にゃあ、打ち首もんでしたが、業界変われば、反則技も変わるでして、文芸界では、こんなことでも、了承してくれる懐の大きさがあるようです。

このほかにも、文芸界には、会社員時代には考えられなかったことがありますが、そのなかの一つに、契約書にあまり重きを置いていないことが上げられます。
この世界に入るまでは、まず、契約書を交わしてから、執筆に入り、その後、必要な時々に、契約書を交わして、出版まで進むようにイメージしていたのですが、実際は、全然違っていました。
口約束のまま、どんどん進行していき、出版して、しばらく経った頃に、契約書が送られてきて、過去の日付けの契約書にサインと捺印をするのです。
慣習と思われるのですが、互いを信頼しきっている感じが、とても日本っぽく、嫌いではありません。
あるケースでは、単行本を発行し、三年後に文庫を発行することになり、調べてみたら、契約書をまだ交わしていなかったので、今からしてもらっていいですか? と、笑っちゃうような連絡があったことも。
また、あるケースでは、珍しく、私から「そういえば、契約書って、交わしましたっけ?」と尋ねたら、「あっ、交わした方がいいですか?」という、びっくりする質問返しがきたことも。
なんでも、作家によっては、契約書の話を持ち出すと、そんな杓子定規なことを言ってくるとは、何事だと、怒り出す人もいるそうで、作家側から言い出されるまでは、言わないと決めているそうです。
こんなのんびりした世界、私はとても好きですが、最近は、映像や電子書籍など、関わる会社が増えてきているせいで、きっちりと契約書を交わすことが増えてきました。
文芸界にも、時代の変化がやってきているようです。
とすると・・・そのうち、「暑くなる前には」なんてことも通用しなくなるのでしょうか。
それは、ちょっと困るなぁと、思ったりしています。

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