わたしを離さないで

  • 2013年02月28日

静かに、でも、とても深く胸に刻まれた映画をご紹介。

まずは、「わたしを離さないで」。

この透明感と空気感はなんでしょう。
現実世界より、数センチほど浮いているような、浮遊感が全体的に漂っています。
ストーリーが進み、登場人物たちが背負っている残酷な運命がはっきりとし出すと、この浮遊感が、お伽噺を表現するのに必要だったのだとわかります。
カズオ・イシグロさんの原作は読んでいないので、わからないのですが、原作もこのような浮遊感漂う作品だったのでしょうか。
お伽噺にしては、あまりに切なすぎる結末。
観終わった後、ゆっくりと胸に浸み込んでくる感動がありました。
奇想天外な設定を用意はしているものの、描いているのは、人間の本質という点は、私が大好きな作家、星新一さんの世界観に近いように感じられました。

次にご紹介するのは「イリュージョニスト」。

80分ほどのアニメーション作品です。
ほとんどセリフがないという、独特の静けさの中、落ちぶれた手品師と、少女の物語が進んでいきます。
アニメーション作品にありがちな大袈裟な表現は一切なく、淡々とストーリーが進んでいくところが特徴。
少女が、手品師を魔法使いと思い込んでいるという設定が、最初は微笑ましく思えるのですが、それがやがて、残酷だと感じられるように、変化していきます。
そして、とても苦い結末へと向かっていきます。
ストーリーは、大人向きのものなので、どうしてアニメーションで制作したのだろうかと、思いもしたのですが、よくよく考えてみれば、これを実写でやってしまうと、残酷さが強く出過ぎてしまい、余韻を味わえなかっただろうことが推測できます。
そういうことも、あるんだよね、と、なんとか受け入れられるのも、アニメーションという一枚のベールがあるお陰かもしれません。

2作品の共通点は、静寂さ。
作り手としては、登場人物にドタバタさせた方が、ストーリーを動かし易いと思うのですが、そうはせず、敢えて、静けさをドンと置いておき、そこを、ゆっくり物語を進ませていくという、難しい方を選んでいます。
それが、2作品を成功に導いているように感じられました。

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