作品と音楽
- 2013年05月27日
文庫「嫌な女」が書店に並んでいます。
お手に取っていただいたでしょうか?
執筆する際、音楽は必須。
1つの小説に、1枚の音楽アルバムを選び、それをテーマ曲として、執筆中の半年ほどの間、毎日、延々と聴き続けます。
これをパブロフの犬作戦と呼んでいます。
毎日続けているうちに、やがて、その音楽を聴けば、自然と小説の世界を思い出せるようになるからです。
昨日嫌なことがあった。
今夜、楽しみな予定がある。
といった、気もそぞろになりがちな時、音楽アルバムをかければ、すっと小説の世界に入れます。
これは、とても助かります。
「嫌な女」の文庫化にあたり、3年ぶりに原稿をチェックする時にも、まず、テーマと決めた音楽アルバムを流します。
すると、あぁ、そうそう、これね。
という具合に、3年前にすんなり戻れるのです。
では、「嫌な女」執筆時の音楽アルバムはなにかというと・・・これ、決まるまでが大変でした。
音楽をダウンロードして購入することができない私は、精一杯勘を働かせて、音楽CDを片っ端から買っていきます。
大抵は、そうやって買った中から「これだっ」というのが見つかるのですが、「嫌な女」の時は、全然、フィットするものと出会えませんでした。
買っても、買っても、違う。
どんだけ買うはめになるんだろうとの不安もよぎります。
「小説と世界観が近いもの」だの「切ない感じなんだけど、重くはない感じ」だの「ちょっと懐かしい感じも欲しい」だのという、抽象的過ぎて、よーわからん私の希望を、出版社の担当編集者は辛抱強く聞いてくれて、「これは、どうでしょう」と提案して手伝ってくれたのですが、それでも、なかなかこれぞというものに出会えずにいました。
ええいっ。こうなったら、昔の音楽CDからも探そうじゃないかいっ。
ということで、押し入れの奥に仕舞っていた昔の音楽CDを引っ張り出し、一枚ずつ聴いていきます。
と、「あっ、これだっ」という1枚を発見。
久保田利伸さんの「As One」というアルバムでした。
2000年に発表したもののようです。
聴いているうちに、どんどん小説の世界が広がっていく気配があって、これで、ようやく執筆をスタートできるとほっとし、嬉しくなったことを覚えています。
では、「嫌な女」を読んでくださる時はどうかというと・・・それぞれの方が、それぞれのタイミングで、それぞれの方法で読むのだと思います。
移動中なので、周囲の雑音をBGMとする方。
カフェで、店内のBGMを聴きながらの方。
家で、最近のお気に入りの音楽を聴きながらの方。
家事の合間に、洗濯機が動く音を聴きながらの方。
ベッドの中で、無音の状態で。
そんな時、小説と読者の間でどんなコラボが展開されているのでしょうか。
どなたかに、尋ねてみたい気がしています。