数学の授業
- 2013年10月24日
高校生の時の私には、すべての授業がつまらなかったもんです。
今では授業に興味をもたせるような工夫をする先生が多いようですが、昔は、授業の質というものにはそれほど重きが置かれていませんでした。
教え方が問われることはなく、ついてこれない生徒が悪いといった感じでした。
特に数学は酷かった。
元々興味がないところにもってきて、女教師の授業には熱のようなものが一切ありませんでした。
教科書に出てくる数式を黒板に書き写し、それを淡々と解いていくだけ。
大人になって当時を振り返れば、授業がつまらないから、勉強したくないという、なんとも勝手な理屈を振りかざす子どもだったなと、反省しきりです。
が、当時の私は、つまらなさ過ぎて、どうしようもありませんでした。
クラスメイトたちも同じだったようで、漫画を読んだり、友人に手紙を書いたりなど、各自が退屈をしのぐためのなんらかの努力をして、50分を耐え忍んでいました。
ある日のこと。
どうしてそんなことになったのか、きっかけは覚えていないのですが、女教師が飼い犬の話をし出しました。
その女教師には息子さんが2人いて、犬は自分を次男だと思っているようだという話でした。
数学以外の話が、その女教師から出たことはなく、結婚していたことも、子どもが2人いたことも、クラスの全員が初めて知ったことでした。
私も含めてクラスの生徒が、こっそりやっていたことを止めて、教師の話に集中し出します。
犬が自分次男だと思い込んでいるのには訳があると教師は言います。
犬は、長男が生まれた後で、家にやってきた。
だから、犬は自分を末っ子だと思っていたところに、弟が生まれた。
彼は、犬にとっては、弟になるのだろうと話し、その例を挙げました。
家族で車に乗り込もうとする時、子どもたちは後部座席に座る。
長男が先に乗り込むのは構わないのだが、次に次男が乗り込もうとすると、犬はそれを許さず、服を引っ張ったりして、阻止しようとする。次男のボクが乗ってから、君は次だからとでも言うように。
そうしたせいで、末の息子さんも、自分を三男だと思うようになってしまった。
保育園の先生に何人きょうだいかと聞かれて「3人」と答えていたと言って、教師は笑いました。
クラスの皆も、一緒に微笑みます。
それは、数学の授業で初めての光景でした。
それからすぐに授業が再開されてしまい、少し温まった心は、黒板に書かれた数式によって一気に冷えていきました。
高校生の頃は、教師というのは特別な大人でした。
私生活があるということや、なにかに興味があったり、苦手だったりといった人間性に、意識が向きませんでした。
それだけ、私が小さな世界に住んでいたのでしょうか。