郵便受けに、毎日のように入っているのが、デリバリーメニューのチラシ。
オールカラーで、そこそこ経費がかかっています、といったメニューが多いですね。
いかにも、個人経営ですといった手作り感いっぱいのチラシなんかもありまして、これはこれで、好感がもてたりします。
こういったチラシは、ファイルに保管しておきまして、友人らが遊びに来た時などに、そのファイルを取り出して「さ、どこにする?」と尋ね、多数決で店を決めることも。
で、いざ注文しようとすると・・・お客様がおかけになった電話番号は・・・といったアナウンスが聞こえてくることも、よくあります。
店がなくなっているんですね。
チラシの日付けを見ると、まだ1年も経っていなかったりします。
激戦なんでしょうか。あっという間に店をたたんでしまうようですね。
以前住んでいた街には、ちっちゃな商店街がありました。
激安が売りのスーパーが駅の西口と、東口にありまして、それを目当ての買い物客たちで、夕方には、この商店街は大混雑でした。
この2軒のスーパーが中心ではありましたが、八百屋やうどん店、クリーニング店などの個人商店も、頑張っていました。
ところが、そこに、魔の店というのがありました。
立地的には、商店街の中でも駅に近い位置にあり、どちらといえば、恵まれている方です。
ところが、半年ともたない。
パン屋、洋食屋、一杯飲み屋・・・と、開店するものの、数か月後にはシャッターに、閉店しますと書かれた紙が貼られることに。
ある日、この魔の店の前を通りかかると、開店祝いの木札が立った花が。
今度は、なんの店? と、中を窺っていると、どうやら、コーヒー豆の専門店の様子。
そこで、考えます。
スーパーでは、レギュラーコーヒーもインスタントコーヒーもたくさんの種類が、お手頃価格で売られている。
ネギや牛乳を買うついでに、買えるという便利さも、スーパーにはある。
こうした優位に立つスーパーに、果たして、この新店は勝てるだろうかと。
きっと、専門店と謳うぐらいだから、美味しいコーヒー豆ではあるのでしょうが、コーヒーの味にこだわる人は、この街に、何人ぐらいいるもんでしょうか。
と、「どうかしらねぇ、コーヒー豆専門店っていうのは」と声が。
気が付くと、私の隣には50歳代ぐらいと思しき女性が一人立っていて、どうやら私に話しかけている模様。
「どうでしょうかねぇ」と、私も首を傾げます。
「1度は買ってみるかもしれないけどねぇ」と件の女性は言います。「相当美味しくないと、ダメよねぇ。また、3ヵ月ぐらいで閉店するんじゃないかしらね。ここは、場所がこんなにいいのに、勿体ないもんだわよねぇ」
そこで、私は尋ねてみました。「ここ、どんな商売だったら、上手くいくと思いますか?」と。
一瞬、驚いたような顔をした女性でしたが、すぐに楽しそうな表情になって、「分単位で子どもを預かってくれる託児所」と答えました。
その女性の説明によれば、こっちのスーパーで買い物をして、あっちのスーパーで特売品を買って、なんてことをしていると、2、30分はかかってしまうし、ポイントが2倍つく日なんかだと、レジで渋滞に巻き込まれることもある。そんな時、子どもがいると、あれも買ってくれなどとねだられて、余計な出費することもあるし、ゆっくり品物を選ぶこともできなかったりするので、分単位でちょっとの間、預かってくれる場所があったら、利用者は結構いるんじゃないかとのことでした。
なるほど、と、いたく納得しました。
この女性が、どんな職歴をおもちの方なのか、まったくわかりませんが、こういう、日常から生まれるアイデアの中に、商売の可能性が潜んでいるように、私には感じられました。
え?
コーヒー豆の専門店はどうなったかって?
4ヵ月で閉店しました。
自分とはまったく違う世界に住んでいる人と出くわすと、びっくりするもんですね。
それは、大学時代のこと。
「A子ちゃんは、すっごいお金持ちなんだよ」と、B子が私に教えてくれました。
A子とB子と私の3人で、どこかのカフェでお茶をしていた時のことです。
「へぇ」と私が言うと、B子が、高級ブランドの名前を上げ、そのバッグを紙袋と同じように、使い捨てするんだからと、教えてくれました。
その高級ブランドは、皆の憧れで、ビンボー学生の私なんかは、当然、一つも持っていません。OLさんなんかが、ボーナスが出た時に、迷って、迷って、悩んで、ええいっと勢いをつけて、ようやく買えるといったぐらいの、高価格のバッグが有名でした。
それを、使い捨てる?
意味がよくわからず、どういうこと? と尋ねると・・・。
なんでも、A子の一家は、よくパリに旅行に行くそうなのですが、そんな時には、機内持ち込み用の小さなバッグ一つしか持っていかない。服も靴も、下着もなに一つ、持っていかない。そうしたものは、パリで買えばいいという考え方。
で、パリのホテルに着くや、その日、ディナーに行くための服や、なにやらを一式買う。
次の日、買い物に行くための服をホテルで調達してから、買い物に行く。ってなことで、一週間ほどの休暇を楽しむ。
帰国の日が近づき、買った物を荷造りする段になると、件の高級ブランド店へ行き、買った物が入るぐらいの大きさのバッグを、何個も買う。四人家族で、十個ぐらいになるそうで。そして、買った物を、そのバッグに詰め込み、日本に戻る。
でもって、買った物を、クローゼットに仕舞い、それらを入れてきたバッグは、捨ててしまう、ということらしい。
びっくり仰天した私は、椅子から落ちそうになりながら、捨てる場所を教えてくれ、拾いに行くからと言ってしまいました。
A子は恥じらうような顔をして「だって、知らなかったんだもの」と、またまた爆弾発言をして、私を驚かせました。
なんと、子どもの頃から、ずっとそういう家族旅行をしていたので、そういうものだと思っていた。バッグを捨てず、次の時にも利用すればいいと、大学の友人に言われて、初めて、そうか、と気付いたとのこと。
桁違いの金持ちっているんですよね、世の中には。
ちなみに、我が家では、本物の紙袋でさえ、「勿体ない」「いつか、使うかもしれないから」といって、大量に取ってありましたが。
運転免許を取ろうと決心したのは、30歳の時。
当時はオートマ限定免許というのが、始まったばかりの頃でしたが、なぜか、マニュアルでの免許取得を目指して、教習所に申込みました。
が、その後、何度、オートマ限定に変更しようかと考えたことか。
最後の方は、意地になっていただけだったかもしれません。
マニュアル車というのは、皆さんご存知の通り、たくさんのことを同時にしなくてはなりません。左手でシフトチェンジをするわ、足ではクラッチを踏まなきゃいけないわ、で、そんなにいくつも、できんわっと、何度キレそうになったことでしょう。
1時限の技能教習が終わった後には、私の脳味噌は発熱しているのではあるまいかと思うほど、ぐったり。
当時は、友人らに免許をもっているかと尋ねては、マニュアルで取ったと聞くと、「尊敬してます」と告げ、その人に向かって手を合わせ、あやかりたいと呟いたもんでした。
教習所内にあるクランクや、縦列駐車の練習では、何度エンストさせたことでしょう。
そんな私でも、なんとか一つひとつの課程をクリアしていき、路上に出る日がやってきます。
怖かったのなんのって。
隣に乗っていた指導員の方が、よっぽど怖かったとは思いますが、当時の私には、周りに気を使えるほどの余裕はなく、心の中で、キャーキャー言いながら、ハンドルを握りしめていましたっけ。
高速道路を走行する教習の時も、それはそれは、怖かったです。
1人の指導員に3人の教習生で、高速道路に向かい、途中、教習生が交代しながら、運転します。
自分の番が終われば、げっそりするもの、後はのんびりドライブを楽しむ・・・となったらいいのですが、そうはいかない。
私と運転技術がどっこいどっこいぐらいの教習生が運転しているので、後部座席に座っていても、緊張感がハンパじゃない。
車内は静まり返り、ただ、緊迫感があるのみ。
窓外の景色なんて、見る余裕なし。
そして、無事、教習所に戻ると、誰からともなく、拍手が起きたのでした。
そんな怖い思いまでして、なんとか取った免許。
免許証を手にしたその足で、駐車場を借りるため、不動産屋に行くという前のめりな行動を。
そして、中古車を買い、納車日とその翌日、会社の休暇を取り、ドライブ三昧の予定を立てました。
納車を待てない気持ちが強く、自分で取りに行きますと宣言し、電車で中古車販売店へ。
契約を済ませ、「それじゃ」と店員に手を振り、走り出し、3キロほど走ったところで、左折しようとして、ガードレールにぶつけてしまい、サイドマーカーランプが破損。
くるりとUターンし、販売店へ。
部品を取り寄せるのに、2週間と言われ、絶句していると、見積書がそっと差し出され、そこには、車を買った金額とほぼ同額の数字が。
唸り声を出しながら、見上げた空が、やけに青かったことを、覚えています。
NHKBSプレミアムで放送されたドラマ「恋愛検定」のDVDが、2月6日に発売されます。
見逃してしまった方、或いは、もう一度、ご覧になりたい方は、こちらのDVDを、どうぞ。
ドラマでは4話で4人の恋愛検定の悲喜こもごもが演じられていました。単行本では、この4人のほかに、2人を加えた、6人の恋愛検定を書きました。
よく、アイデアはどこからとか、身近にサンプルでもあるのですか? と聞かれます。
今まで書いてきた小説にどれだけの登場人物がいたのか、数えたことがないのでわからないのですが、相当の数になっているはず。ではありますが、私が知っている実在の人物を登場させたことは一人もありません。
じゃあ、全部が創作かと言われると、そうでもなくて、本を読んだり、映画を観たり、テレビを観たり、友人から、そのまた友人の話を聞いたり・・・といった情報が、私の中に入り、そこでミックスされ、さらに、想像も加わって、そこから、キャラクターが生まれます。
街のファストフードで聞き耳を立てるというのを、趣味の一つにしているのですが、これも、キャラクター作りに、結構役立っています。
先日、隣席の女子中学生二人の会話に聞き耳を立てていると・・・「最近、彼氏と、どうよ?」と聞かれた友人が、「倦怠期~」と答えた時には、あまりにびっくりした私は、飲んでいたコーヒーが鼻に入ってしまって、ぶほほっと咳き込んでしまいました。
倦怠期という言葉を女子中学生が知っていたという驚きと、すでに倦怠期に入っているという中学生の交際って、どんなもんなのかという疑問で、私の胸は千々に乱れました。
この趣味は、電車の中で、行われることもあります。
ある日、電車の中で、女子小学生二人の会話に聞き身を立てていました。
恐らく小学5、6年生で、塾へ行く途中のような二人。
一人が「結局、マスカラは○○だよね」と宣言しました。
その子は、小学生が知っているだけで驚きの、高級ブランドの名前を出したのでした。
それは、私が25歳の時に出した結論と、まったく同じで、その小学生がいかにして、その結論にまで辿り着いたのか、インタビューしたい気持ちになりました。
こうした聞き耳によって得た情報も、私の中に入り、ほかの情報とミックスされます。そして、そこから新たなキャラクターが生まれ、小説に登場します。
そうして生まれたキャラクターに、さらに命を吹き込んでくれるのが、俳優さんたち。
本読みに立ち会った時、ひと言目のセリフから、命の輝きが感じられて、「すっげぇ」と、思わず呟いてしまいました。
思うようにいかないながらも、懸命に生きる人たちの物語が「恋愛検定」です。
DVDでも、お楽しみください。