文庫「手の中の天秤」が発売になります
- 2016年09月08日
文庫「手の中の天秤」が発売になります。
9月10日頃から書店に並び始める予定です。
単行本版とは装丁が変わりました。
濃い感じの仕上がりになったと思うのですが、いかがでしょう。
人生の奥深さ、濃さを表しているかのようでしょ?
「手の中の天秤」では悲劇に見舞われた人々を描いています。
悲劇とどう向き合うのか、どう乗り越えるのか、乗り越える必要があるのか・・・そんな難しいテーマに挑戦した作品です。
執行猶予期間中は加害者が反省する期間・・・と捉える世界の物語です。
それは執行猶予被害者・遺族預かり制度と呼ばれています。
裁判で有罪の判決が出て執行猶予が付いたら、その間の加害者の生活状況が担当係官によって調査されます。
そのレポートは、係官から被害者や遺族に届けられます。
加害者がどんな生活を送っているのかを知らされた被害者や遺族は、なにを思うのか。
どういうレポートだったら満足するのか、心の傷みが減るのか・・・新人係官が戸惑いながらも様々なケースと向き合っていきます。
執行猶予期間が終了する時、加害者を刑務所に入れるか、入れないかを決められるのは、被害者と遺族。
どんな決断を下すのか、またその際にレポートが果たした役割はなんだったのか・・・読者の皆さんに見届けていただきたいと思っています。
小説を書くという仕事の中には、登場人物に感情移入しながら書く作業と、少し距離を置いたところから眺めて推敲する作業の2種類があります。
役者さんと監督さんの2種類の仕事があるといった方が、わかり易いでしょうか。
まずは自分がその登場人物になりきって言葉を発し、心を動かす作業。
そうして書いたシーンを「いや、そうじゃなくて、突然立ち上がってから、指を相手に付きつけて大声でセリフを言ってみようか」とやり直しをさせる作業。
これを交互に行って書き進めていき、1つの小説が出来上がります。
「手の中の天秤」ではこの2つの作業の切り替えが難しかった。
どの登場人物も悲劇を経験しているので、その人物になりきった時の、心の荒れ様がしんどかった。
それだけでも充分しんどいのに、今度は監督の立場でダメ出しをしなくちゃいけない。
今のはもっと感情を内に秘めてやり直し、なんて思っちゃう。
もう一度登場人物の辛い気持ちにすぐには入れなくて、お茶を飲んだりします。
一服して覚悟を決めてから、登場人物に再び侵入していく。
この繰り返しは、こちらの心身に負荷が掛かります。
途中で放り出さず、なんとか最後まで彼らに寄り添えたのは、それが彼らを生み出した私の責任だと思っていたからでしょう。
ぜひお手に取ってみてください。