映画「嫌な女」の公開が始まりました。
すでにご覧いただいたでしょうか?
それともこれからでしょうか。
映画の公開に至るまで、とてもとてもたくさんの人たちのサポートを頂戴しました。
新刊を出すと、しばしば映像化のオファーをいただきます。
これは私に限った現象ではなく、他の多くの作家の皆さんも経験されていることです。
時には発売前の段階で、映像化の話が入ることもあります。
恐らく刊行予定の情報をチェックされたのでしょう。
そこにある小説の宣伝文句やあらすじだけを読み、唾を付けておこうとの考えのようです。
映像化の話があっても、実現まで辿り着くのはごくごく僅かです。
大抵途中で頓挫します。
大きなお金が必要な映像化の場合、資金集めはとても大変です。
またたくさんの団体、大勢の人の承諾を得ていかなくてはなりません。
映像化を実現させようとするならば、苦労を背負う覚悟が必要です。
「嫌な女」の映画化を実現できたのは、黒木瞳さんの熱意があったからです。
その熱意が大勢の人の心を動かし、多くのサポートを得られたのだと思います。
諦めず、熱意を持ち続けて実現に向かって走り続ける・・・言うは易し行うは難し。
それを黒木さんはやってみせてくれました。
その努力する姿勢を目にし、感謝で胸がいっぱいになりました。
感謝の気持ちを捧げたい人は、ほかにもたくさんいらっしゃいます。
元々は「こんな小説を書きたいのだけど、どうだろう?」といった話を、編集者にしたところからスタートしました。
面白そうと言ってもらい、書き始めたものの、時に筆が止まったり、迷ったりしました。
そうした時、気長に待つだけでなく、励ましてもいただきました。
単行本として発表するまでには、また大勢の方のサポートをいただきました。
デザイナーさんや営業、制作、宣伝といった部署の人たちの協力を得た後、書店でもまたたくさんの人のサポートを貰いました。
ポップを作って応援してくださった書店員さん、面白いとツイートしてくださった書店員さんもいました。
いい作品だと取り上げて紹介してくださった文芸評論家の支援も有り難かったです。
そして、本を読んだ方たちが感想を広げてくださり、次の読者への繋がりを作ってくださいました。
映像化に向けて動き出してからもたくさんのサポートを頂戴しました。
ライツの皆さんの働きなくして、今回の実現はなかったでしょう。
黒木さんのマネージャーさんの粘り腰も大きな力となりました。
映画会社の皆さん、出資してくださった企業の皆さんからも応援をいただきました。
まだまだここに上げ切れなかった大勢の人の支援をいただきました。
多くの皆さんに愛された「嫌な女」はとても幸せものだと、今つくづく思います。
どうも有り難うございました。
まだ小説「嫌な女」を読んでいない方は、映画を観る前に、或いは観た後にぜひ。
すでに読んだという方は、「女シリーズ」の第二弾「我慢ならない女」を。
小説のプロットを立てる時、同時にキャラクターも考えます。
どんな性格か、年齢、家族といった基本的なことは勿論、細部も作っていきます。
どんな家や部屋に住んでいるか、普段どんなファッションをしているかも大事な要素です。
容姿も決めますが、どこかに絵を描いたりはしません。
私の頭の中に像を収納するだけです。
どんな趣味かを考えるのは結構楽しい。
バードウオッチングにするか、ボウリングにするか、あれこれ考えます。
そしてこれにしようと決めたら、そこから猛勉強。
大抵その趣味をもつ人たちのための雑誌や本が出ているので、それらを買い漁り、それのどういった点が魅力なのか、どういうところが難しいところなのかを学びます。
これ、主な登場人物の数だけありますから、勉強するまとまった時間が必要になります。
趣味雑誌はとにかく面白いのですが、特に後ろのページがいいんです。
たとえば読者からの質問に、誰かが回答するページ。
そんなことが疑問なんだぁと、まず質問自体にびっくりし、それに真面目に解決策を提示してくれていることにまたびっくり。
その趣味の人たちがどういったことで困り、それはどうしたらいいのかといったことまでわかるので、とても勉強になります。
こうした雑誌の広告ページも興味深い。
以前ボウリングの専門雑誌を見ていたら、マイボールを作ってくれるショップの広告を発見。
さらにグローブのオーダーをしてくれるショップも。
言われてみれば、プロボウラーって手袋してますよね。
その道を突き詰めていくと、やはりオーダーという領域に入っていくんでしょうかね。
バードウオッチングの専門雑誌には、どこにどの時期に行けば、どの鳥を見られるといった情報が載っていました。
さらに鳥の生態が詳細に紹介されています。
あるんじゃないかと思って探したら、やはりありました。
読者の投稿写真を紹介するページが。
鳥を愛する人は、その姿を形に残したいと思うはずとの読みが当たりました。
ということは・・・と探すと、ありましたね。
双眼鏡の広告が。
カメラの広告も。当然望遠レンズの広告も。
趣味を突き詰めていけば、必要な道具が欲しくなるってもんです。
やっぱりねと思いながら見ていると・・・録音機材の広告ページと出くわしました。
高感度だというそのマイクで、鳥の鳴き声をクリアに録音できると謳っています。
どうやら、鳴き声を録音したくなる人がいるようです。
そこまでは想像できていませんでした。
趣味の世界は奥が深いです。
新刊「総選挙ホテル」に登場する支配人の趣味がバードウオッチングです。
小さな鳥が子育てをしているのを眺めるのが好きで、朝早い時間に公園でバードウオッチングを楽しみます。
支配人が働いているホテルは上手くいっていなくて、大きなストレスを抱えています。
売上が減っていくなかいろんなことをやってみても成果が出ず、焦りを募らせます。
そんななかしばし、鳥の営みを見つめ、心を潤します。
登場人物の趣味は、時にその性格や人生観を表してくれます。
支配人の人間性が表現できていればいいのですが。
作家稼業の中で1番しんどいのは、文庫を出すための作業です。
3、4年前に単行本として出した小説を、文庫という形態に変更して出すためには、改めて自分の原稿を読み直さなくてはなりません。
これがメンタルにくる。
書いた時は最善だと思って使った言葉、表現でも、3、4年後に読み直してみれば、未熟さが目に付く。
なぜこういうシーンにしたんだろうと、物語の構成への不満も。
ああすれば良かった、こうすれば・・・と後悔と自分への失望感でいっぱいに。
へこみますし、すべてを書き直したくなります。
探さないでくださいと置手紙でもして、旅に出たいところです。
が、無理矢理考え方をポジティブ方向へと動かします。
確かに未熟ではあっても、この時にしか書けなかった物語だったんだと、肯定的に考えるように仕向けます。
そうしてなんとか文庫という形で発表させていただきます。
文庫「我慢ならない女」も、そうやって完成させました。
「嫌な女」から始まった女シリーズの第2弾です。
「嫌な女」は25日から映画の公開が始まります。
この「嫌な女」はNHKBSドラマとして放送され、そこには映画「嫌な女」の監督をされた黒木瞳さんが、徹子役で出演されています。
こちらのDVDは24日に発売です。
文庫、映画、DVDと様々な入口がありますので、興味のあるところから入っていただき、そこから次へと移っていって、それぞれを楽しんでいただければと思います。
同じ小説を基にしていても、アプローチの仕方で全然味わいの違う作品になるというのが面白いですね。
「我慢ならない女」ではひろ江と明子の物語が、「嫌な女」では徹子と夏子の物語が展開されます。
どちらも長い年月に亘る関係性を描いています。
人生を丸ごと描くというなかなか大変なトライをした作品でもあります。
ぜひ味わってみてください。
仕事がらみで地方のホテルに1人で1泊。
土地勘のない場所で夕食をどうするかは難問なのですが、そのホテルは夕食付きだったため、今回は悩まずに済むと安心しきっていました。
フロントスタッフの指示通り、午後七時頃に館内の和食店へ。
宿泊客は夕食をその店で摂る決まりのようです。
4人掛けのテーブルに1人着かされ、メニューが出てくるのを待っていると・・・和紙に筆で書かれたお品書きがテーブルに置かれました。
料理は選べず、お店が用意してくれたものを食すだけのようです。
ここらで嫌な予感が。
やがて着物を着た女性スタッフが、1品目を運んできてくれました。
どうやらこちらでは、料理を1品ずつ提供してくれるお上品なスタイルを取っている模様。
これ、1人食にはツライ。
どうせならその土地の美味しいものを食べたいとは思いますが、できれば1品とか1定食スタイルで、ちゃっちゃっと食べたい。
次の料理が出てくるまでの間がもたないので。
旅慣れている人であれば、スマホや本などを用意しているのでしょうが、なにも考えずに椅子に座った私は、部屋のキーしか持っていない。
私の背後の席に座っている3人の女性たちが、それぞれの嫁への不満をぶちまける会話をただ聞いていました。
こうなると背後の席が無口なカップルなんかじゃなくて良かったと、心の底から思います。
聞いているだけで間がもったので。
姑の悲哀について聞きながら1品ずつ食べて行き、ようやくデザートに。
翌朝はスケジュールの都合上、午前六時に朝食を摂ることに。
いつもとは違う寝具だったため、質の良くない睡眠だったことや、いつもよりかなり早い時間に起きたことで、頭はぼんやりしています。
朝食をパスするという言葉は私の辞書にはないため、そんな状態であっても、朝食のチケットを手に部屋を出ました。
和食か洋食かどちらか選べるというので、洋食を選択。
昨夜とは違うレストランの4人掛けのテーブルに着くと・・・女性スタッフが水とオレンジジュースを運んできました。
ん?
昨夜和食の店で、着物姿で私に1品ずつサーブしてくれた女性です。
今朝は白いブラウスと黒いスカート姿。
あなたのシフトは随分とキツいねぇと、思わず同情したくなりました。
昨夜の和食店で何時まで働いていたのか知りませんが、翌朝の午前六時にきびきびと働いていることに感心しました。
きちんと化粧をして、髪はまとめ上げていて、身支度もちゃんとしています。
通常のシフトがそうなのか、それとも誰かが具合が悪くなったといった理由によるイレギュラーなシフトなのかはわかりません。
いずれにしても大変な働きっぷりです。
新刊「総選挙ホテル」はホテルが舞台です。
ホテルで働く人たちが登場します。
中には無理なシフトで働くスタッフもいるでしょうし、やる気のないスタッフもいるでしょう。
様々なセクションの人たちが、迷ったり悩んだりしながら働いています。
スポットは働くということだけでなく、そのプライベートな領域にも。
その人の人生を描きたいと思いながら書きました。
ぜひ読んでみてください。