ある専門雑誌を見ていたら、音楽CD販売店の広告ページがありました。
その専門分野の人たちが欲しがるであろう曲が、様々な企画ごとに編集され、CDに収められている模様。
そうしたCDがたくさんあるようで、タイトルがずらっと並び、その横には商品番号らしきものが。
なんとなく目を通していたら・・・ご注文はFAXでとの文字を発見。
度肝を抜かれる。
FAXで受注するスタイルを堅持しているところがあるんですね。
そして考えてみました。
私がFAX受信をしたのはいつだったかと。
最後がいつだったか思い出せない。
またFAXを送信したのがいつだったのかも思い出せない。
以前はインタビュー原稿のチェックなどは、FAXで送られてきました。
修正箇所があれば赤字を入れて、FAXで送り返していました。
それがいつの頃からか、原稿はPDFでメールに添付されてくるようになり、私も同様にして戻すようになりました。
更に昔の話。
ライター時代に取材に行ったたい焼き店での話です。
原稿が出来たらチェックしていただきたいので、FAX番号を教えてくださいと、男性店主にお願いしました。
すると「故障しちゃっててさ」とのこと。
だから郵送して欲しいとの申し出でした。
その取材は週刊誌のためのもので、かなりスケジュールがタイト。
郵送に掛かってしまう日数はかなり痛い。
でも故障してるんじゃしょうがないし、そうした確認作業は編集者の仕事で、私のではないから、ま、いっかぐらいの気持ちで受け止める。
店主が言い出しました。
「紙がなくなったからセットしろって文字が、出て来るようになっちゃってさ」と。
ん?
「それは故障ではなくて、紙をセットすれば解決するんではないでしょうか?」と私が言うと、「あ、そうなの? だったら買った店に電話して、やって貰うわ」と店主。
ええええ?
そんなことで呼び出される店の人を不憫だと思う。
そこでFAX機を探してみると・・・店の奥にあるそれは、ロール紙をセットするタイプでした。
「紙の買い置きがあるのなら私がセットしてみましょうか」と提案すると、「凄いね、あなた。そんなこと、出来るの?」と驚かれてしまう。
出来るかどうかわかりませんが挑戦してみましょうか? と言ったら、物凄く喜ばれてしまい、そんなことでとこっちが驚く。
結局、買い置きがなく、私は挑戦することなくその店を去りました。
あの店主、元気かなぁ。
FAXの紙を自分で取り換えられるようになったかなぁ。
ライター時代、今ぐらいによく書いていたのは花火大会の記事でした。
花火大会の情報を、開催前に発売される雑誌で掲載するため「こういう大会でした」といった報告形式ではなく、「こういう大会になります」という予想形式での執筆。
それぞれの大会主催者から提供される情報だけで、違いや特徴、お勧めポイントなどを書き分けなければならず、大変腐心しました。
どれも花火で一緒だってぇのと、文句たらたらで書いていた記憶があります。
この時期に花火大会の次に多かったのが、船の特集でした。
涼しげな感じが、夏に組む特集としては好評だったのでしょうか。
取材のため屋形船や観光船に乗りました。
確かに水面を渡る風は気持ち良く、船の上で暮らそうかなぁと思ったことも、一度や二度ではありませんでした。
原稿を書くため航路を調べてみると・・・地下鉄路線図かと見紛うぐらいの、たくさんの航路が入り乱れていることを知りました。
当時はスマホや、乗り換えナビをしてくれるアプリも存在していませんでしたから、目的地にどうやって行くかを考える時には、パソコンでネット検索。
これで問題ない場合もあるのですが、移動中に電車が止まったなんて時には、どうリカバリーしたらいいかは、己の勘と駅員の知識が頼りになる。
電車内で「〇〇駅で人身事故が発生したため、全線運転を停止しています。復旧まで時間が掛かる見込みです」とアナウンスが入ったりすると、乗客たちが一斉にシステム手帳を広げて、そこに挟んでいる路線図を見つめる・・・なんて光景が。
こんな時、電車をどう乗り継げば目的地に行けるのかを考える訳ですが、匠になると、そこにバスという選択肢をもっていたりする。
更にそこにタクシーという選択肢を加える猛者も。
私などは電車だけで精一杯。
しかも三回も乗り換えてやっと目的の駅に辿り着いてみたら、止まっていた電車は再開されていて、乗っていた電車でしばらく待っていた方が早かったとわかり、悔しい思いをする、なんてこともしばしばでした。
複雑な航路を見た時に閃いたのです。
バスやタクシーじゃなく、船という予備手段をもったなら、私は最強になるのではないかと。
匠や猛者を超えるな、と。
そこで航路を記した紙をシステム手帳に挟み、外出するように。
ここまではナイスなアイデアだと思っていたのですが、いざそういう場面に出くわした時に、ちょうどいい航路は・・・なかった。
結局、リカバリーをするために船を利用することはありませんでした。
現在使用している乗り換えアプリでも、船を提案されたことはないので、このアイデアは難しいのかもしれません。
東京都が「通勤船」の事業化を検討しているとか。
晴海と日本橋の間で船通勤の社会実験をしたそうです。
リカバリーの時にではなく通勤に利用するというのは、アリかもしれません。
暑いですねぇ。
今年は特に暑い。
でもこれ、毎年言っているような気がしなくもないのですが。
宅配便の配達員たちの汗を見ると、「お世話様」の言葉だけじゃ到底足りないように思えて、「暑いのに大変ね」と掛ける言葉を足すと、「大変っす」とか「仕事なんで」といった答えが。
大変な仕事です。
毎日なんだかんだと荷物を受け取るので、宅配便のお兄さんたちの顔は大体わかっています。
昨日も自宅から駅へ向かって歩いていると、見慣れた制服に、見慣れた顔。
うちに来る宅配便のお兄さんたちの内の1人でした。
カートを押しながら歩く彼と目が合うと、「荷物1つあります」と言って来る。
「宅配ボックスに入れておいて貰えますか?」とお願いすると、「わかりました」とお兄さん。
「行って来ます」と私が言うと、「行ってらっしゃい」と応じてくれる。
しばらく歩いて気が付く。
お兄さんが完全に私の顔と名前を把握していることに。
最近配達員たちの中に、70代ぐらいに見える男性が加わりました。
いつもは重そうなものだと手で受け取らず、そこに置いてくださいと、たたきの横を指差すのですが、その男性の時にはそうはいかない気が。
そこで私が手で受け取ろうとすると「重いですよ。大丈夫ですか?」と言って来る。
いや、あなたもねと思いながら「はい」と言って、手で受け取ります。
その男性は「それじゃ、どーもー」と気安い調子で言って、帰っていきました。
先日もその男性が荷物を届けに来てくれました。
午前中指定でしたが、その時間から10分ほど遅れての到着。
ドアを開けた私に、その男性は「いやぁ、すみません、遅れちゃって」と言う。
「大丈夫ですよ。それは急ぎのものではなかったので」と私が言うと、「そりゃあ助かった」と男性。
そして「またよろしくー」と再び気安い口調で言って、帰っていきました。
その口調と物腰からはしんどさだとか、不平だとかは微塵も感じられず、むしろエンジョイしているような印象を受けました。
大変な仕事でしょうに。
こんな風に飄々とキツい仕事をこなしてしまう人、尊敬します。
人生100年時代。
元気なうちは働いたり、積極的に社会と関わったりしたいと思う人は増えていくのでしょう。
しんどいだとか口にせず、軽い調子で毎日を楽しめたら・・・悪くないですよね。
「店」の定義が変わりつつあるようですね。
その役割が買う場所から、ショールームへと変化しているんだとか。
ある家電量販店では棚に並べた商品の横に、QRコードが書かれたものが設置されていて、客がそれをスマホで読み取ると、通販サイトに繋がるんだとか。
そこで類似品や口コミをチェックして、よし、買おうとなったら、その通販サイトから注文。
自宅受け取りにすれば手ぶらで帰れるという。
だとすると・・・店員さんがぴたっと張り付いて来る、といった事態に遭わずに済むのでしょうか?
これまで何度も家電量販店に行きましたが、商品を見ていると大抵店員さんから声を掛けられました。
「見てるだけなんです」とか「今日は買わないんですけど」などと予防線を張るのですが、そんなことでは怯んでくれない。
聞いていないのに商品について語り出す店員さん。
え、そうなの? なんて段々その話に惹き付けられていき、気が付けば、この人から買わなくてはいけないといった思いに。
そんな魔法に掛けられて、予定していたのとは違う商品を買ったことが何度もあります。
ショールームとなった店では、こうした店員さんマジックはなくなるのでしょうか。
それはそれでちょっと寂しい。
昔々、パソコンなるものを買った方がいいみたいだと感じた時がありました。
でも周囲の話をいくら聞いても、なにを買ったらいいのかがわからない。
そこで家電量販店へ。
売り場にいた男性店員に「猿でも使えるパソコンはありますか?」と質問。
なんだ、こいつ? といった表情を一切浮かべず、「初めてなんですね」と笑顔で切り返してきた店員さん。
頷く私。
すると「A社かB社がいいでしょうね」と2つの選択肢を出してきました。
だったらA社ですねと言わず、2つの候補を挙げて客に選ばせようとするところなんざ、プロの技。
店員さん曰く「初心者の方なら機能で比べるというよりも、サポートが充実しているかどうかでメーカーを決めた方がいい。だとすると日本メーカーのA社かB社だ」とのこと。
なるほどと納得する。
そしてA社とB社の初心者にお勧めの機種について、ざっくりと話を聞く。
決められない。
どっちにしたらいいですかといった顔で店員さんを見つめる。
すると「決めるの、難しいですよね」と店員さんは言い、「こっちにしましょうか。千円、安いですから」と最後の後押しをしてくれる。
「はい。これにします」と答える私。
店員さんに決めて貰えたことでほっとしていましたっけ。
こんな買い物の仕方をするのは私だけ?
知識はないし、調べたり、勉強したりもしたくないのだけれど、その商品を買いたいと思っている客・・・いないんでしょうか?
ゆっくり見たいなぁと思う一方で、魔法に掛けられたいとも思う。
複雑な心模様の客って、いるでしょ? いない?