試食

  • 2020年12月21日

大学生の頃スキーに行くためのお金を稼ごうと、アルバイトをすることに。
1日単位で働ける短期のバイトを探したところ、店舗での試食販売員の仕事を見つけました。
日給がいくらだったのかは覚えていないのですが、翌日には振り込んで貰えるので、そこで働くのを決めた記憶はあります。

私が派遣されたのはスーパー。
そこで新商品のヨーグルトを試食して貰い、買って貰うのが仕事。

売り場の主任に挨拶をすると「元気よく、試食はいかがですか? とお客さんに声を掛けてください」と指示をされる。

そこで「試食はいかがですか? 新商品のヨーグルトでーす」と声を張り上げましたが、やがて気付きました。
声を出すことで、あそこに試食販売員がいると遠い場所から知られてしまい、それによってお客さんは、私を避けるように回遊しているという点に。

まぁ、たとえ1個も売れなくても、私の日給が減る訳ではないのですが、なんとなくそれはマズいような気持ちもある。
やがて子どもとは100%の確率で、目が合うという点に気付きました。
売り場にぽつんと立っている私に気付くと、すべての子どもはガン見してくるのです。
だから目が合う。
大人たちが買わされたり、声を掛けたりしないように、目を合わないようにしているのに比べて対照的。

そこでガン見してきた子どもの目を見て「食べる?」と試食の容器を差し出すようにしました。
これに対する子どものパターンは2つ。
こくりと頷いて私に近付いて来る子。
「ママー」と、ママにあの人の誘いにのってもいいかと確認する子。
この2つ。

どちらの場合でも母親は「まぁ、それじゃ」と私に近付いて来るケースがほとんど。
そうすると私は子どもに容器を差し出し、更に母親にも渡す。
そして私は子どもに尋ねます。
「美味しい?」と。
「うん」と子どもは答えます。
これ、100%の確率でした。
知らない大人からどうぞとタダで食べさせて貰った子どもは、美味しいかとの問いに、必ずうんと答えると知りました。

子どものお墨付きを貰った私は、母親の説得に入ります。
有名なメーカーの新商品であること、賞味期限が3週間あること、特別安くなっていることを。
矢継ぎ早にいい点を繰り出して、母親が断る理由を思い付けないようにしてしまう。
「じゃあ、買うわ」と言って、買い物籠に入れてくれる確率はかなり高かった。
これはすべて子どもの「うん」のひと言があってのこと。

この「子どもを先に落とす作戦」が功を奏して、ヨーグルトはどんどん売れ、夕方になる前に完売。
売り場の主任から「あなた、うちで働かない?」と誘われた時には、驚きました。

子どもが大人に気を遣って生きていると知った一件でした。

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