病院の待合室で。
椅子にはたくさんの患者たち。
その病院は予約してあっても、長く待たされることが常態化しています。
恐らく医師が患者の話をじっくり聞き、診察も丁寧だから。
そうであればこそ、多くの患者たちが押し寄せる。
だからたっぷり待たされる。
帰宅出来るまで長時間になるのを覚悟して臨むべき病院です。
覚悟をして臨んだその日、待合室で番がくるのを待っていると・・・斜め前方に座る男女に目が留まる。
二人ともとても小さな声で話をしている。
それでも私の場所からは内容を聞き取れる。
どうやら二人は夫婦のようで、夫はどうしてこのような状態になるまで放っておいたのかと、妻を責めている。
妻はたいしたことないと思ったからだと答える。
すると医者でもないのに自己判断するなと夫。
うるさいと妻。
徐々に二人はヒートアップしていく。
もう小声ではなくなり、待合室の患者たちに丸聞こえに。

患者たちの多くはスマホを弄っているものの、夫婦喧嘩のライブにも、しっかり耳をそばだてているといった風情。
妻はワンオペで育児をするのがいかに大変だったかを語り、夫は男の育児参加など、大企業勤務者でしか出来ないことだと言う。
喧嘩って、こんな風に揉めていた点から、テーマがどんどん発展していきますよね。
こうなると、最初なにで揉めていたのかも忘れてしまうぐらいで。
小説「腕が鳴る」に登場する、鶴元大輔と直子の夫婦の場合もそう。
夫婦喧嘩の発端は、大抵家の中が片付いていないこと。
直子が買ったダイエット器具や、冷え性対策グッズなどが、リビングに溢れていて、足の踏み場もないことに、大輔がキレるところから喧嘩はスタートします。
「行き届きませんで、あいすみません」などと言う女じゃない直子は、「働いていて時間がないんだから、しょうがないでしょ」と反論する。
で、喧嘩のテーマはどんどん発展していく。
二人とも相手を責め続け不満をぶちまける。
どっちかが疲れたら、今日の喧嘩は終了となる。
なにも解決していない。
だからまた喧嘩を繰り返す。
これにうんざりした大輔が、整理収納アドバイザーに依頼するところから、この小説は始まります。
整理収納アドバイザーから、思いがけない提案をされた二人が、夫婦としての暮らし方を模索していく姿が描かれています。
シチューが完成するまでまだ時間が掛かりそう。
そうだ。
こういう隙間時間を有効に使おう。
と、考えました。
キッチンから離れられないのですから、キッチンで出来ることを。
ならば、キッチンの吊戸棚の整理をちゃちゃっとしてしまおう。
と、思いつく。

我が家の吊戸棚はそこそこ高さがありまして、手を伸ばせばなんとか届くといった程度。
このため棚の奥にあるものは、つま先立ちをしても見えない。
そこで入居直後にケースを5個購入。
取り出し易くしようと、持ち手が付いているケースを選びました。
料理に使う細々としたものを、5つにテキトーに分類して吊戸棚に収めました。
テキトーに分類しましたが、使っているうちに鰹節は左から二つ目に、煮干しは左端にあると覚えていくので、特段不便も感じていませんでした。
で、この日、滅多に手を伸ばさない右端のケースを整理することに。
するとビーフンが。
賞味期限を見てみたら・・・2023年。
乾物の賞味期限は結構長いと思うのですが、それを2年も超えている。
更に白玉を発見。
白玉は好きなのですが、粉を練るのが面倒だと思っている時に、すでに練り上がっているものを発見し、喜び勇んで買ったという記憶がうっすらと蘇る。
フィルムを剥いて包丁でカットすればOKというもので、熱湯に入れれば数分で完成すると、パッケージに書いてあります。
そしてこちらの賞味期限も2023年。
2年は長いようで短いと思い知る。
更にココナッツミルクを発掘。
液体の状態で紙製の容器に入っているもの。
もしかしてと思いながら賞味期限をチェックすると・・・2023年。
この2年間を反省。
新刊小説「腕が鳴る」に登場する、安達タカ子のキッチンも訳アリです。
買い溜めたものが溢れています。
大量の食器とカップラーメン、レトルト食品らが棚に収まらず、床に直置き状態。
恐らく私のように、賞味期限を年単位で過ぎてしまっているものもあることでしょう。

どうしてこのようになったのか・・・。
5年前に夫が亡くなり、タカ子の暮らしは一変します。
それがキッチンのカオスのきっかけに。
それまでのタカ子の人生、夫を亡くしてからのタカ子の人生はどんなものなのか・・・是非本書でご確認を。
部屋を片付けると決意したとします。
どこから始めるか。
それを見極めるには、散らかってしまった最初の一歩がどこだったのかを、認識するのが肝要そうです。
スタート地点を理解することによって、片付けるための道筋を見つけ易くなりそうに思うのです。
私の場合はちょい置きがスタート地点。
一時的に置く。
仮に置く。
今日だけ置く。
という理由をつけて、本来置くべき場所ではないところに置くのが始め。
そして気が付けば、そこが定位置になってしまっているのです。
以前住んでいたマンションには、応接コーナーを用意していました。
仕事関係者を招き、そこで打ち合わせが出来るようにしていたのです。

が、そこのソファに書類にちょい置きしてしまった。
気が付けばソファには書類の山脈が。
で、今日は来客があるという日はどうするかというと・・・書類をバスタブに移す。
部屋の中を探し回った結果、空いている空間はバスタブしかなかったもんで。
この移す作業が面倒。
打ち合わせが終わったら、またバスタブの書類をソファに戻す作業もあるし。
書類を収めるべきファイルなどに、片付けてしまった方がいいと分かっている。
十二分に。
でも片付けるための時間を作ることを厭うのです。
そしてその場しのぎを繰り返すことを選択してしまう。
新刊「腕が鳴る」の中にも、ちょい置きでカオスとなった部屋に住む人物が登場します。
浅田千栄は高坂重里と2人で暮らしています。
2人は共にちょい置きの天才。
一般人が見つけられない隙間を見つけることが出来るので、そこに物をちょい置きするのです。
そして2人共ちょい置きした場所を忘れる天才でもあるため、リビングはカオスに。
買い置きがあったはずの風邪薬は、必要な時に見つからない。
こんな千栄が一念発起して、整理収納アドバイザーの真穂に片付けを依頼。
プロの手によって、リビングはすっきりと片付きました。
部屋の片付けは終わったのだけれど、千栄の仕事がどん詰まりになっていると知った真穂は、あれやこれやとアドバイス。
千栄は反発を覚えながらも、自分の人生を見つめ直していくように。
千栄がどのように変わっていくのかをお楽しみください。
小説を書く際に悩むことはたくさんあります。
その中の一つが登場人物の名前をどうするか。
「好きな名前にすればいいんじゃね?」とのご意見もあろうかと思いますが、そう簡単にはいかない。
リアルな人間の場合、名前は自分でつけるのではなく大抵親がつける。
だから小説の登場人物の場合でも、どんな親なのかということが、窺える名前にする必要があります。
またその登場人物の年齢も加味しなくてはなりません。
例えば今、10歳の子がルビを付けなければ誰も読めないキラキラネームであっても、親がヤンキーとは限らない。
時代がキラキラネームを許しているという状況下だから。
でも30代でキラキラネームであれば、親が個性的であるといった、風味付けが必要になってくる。
では昔は大人しい名前ばかりだったのかというと、そうともいえない。
70代でファンキーな名前の人も結構いるから。

ということで、小説に登場する人物の名付けでは、いつも頭を捻って考えています。
ごくたまに、すっと名前が落ちてくることがあります。
すとんと脳内に落下してくるのです。
新刊小説「腕が鳴る」にオウムが登場します。
どういう名前にしようかと考え始めた直後に「銀次郎」という名前が落ちてきました。
前世から決められたことであったかのように、それはもう決定事項といった感じ。
これで即座に名前が決まりました。
ニックネームは「銀ちゃん」。
この銀ちゃんを突然預かることになったのは、64歳の三森泰久。
喫茶店の雇われ店長をしています。
転々と仕事を変えて生きてきた泰久。
引っ越しをしたのですが新居に荷物が収まらず、部屋には段ボール箱が山積み。
そこに押しかけるようにやってきたのが、整理収納アドバイザーの真穂。
渋々真穂からの提案を受け入れた泰久でしたが、やがて灰色だった人生に色が付いていくように。
泰久と銀次郎がどんな暮らしをするようになっていくかは、ぜひ本書をお買い求めの上、お楽しみください。