駄菓子屋

  • 2016年08月01日

子どもの頃、近所に駄菓子屋がありました。
お婆さんが一人でやっていました。
子どもだったのでお婆さんと思っていましたが、実際はもっと若かったのかもしれません。
地味な洋装で、髪は貴婦人のように結い上げていて、グレーと白のまだらな髪に簪を挿していたことを覚えています。
そしていつも怒っていたことも記憶に残っています。
こめかみに白くて四角い紙を張り付けていて、険しい顔をしているのです。
dagasiya
私はそれほど駄菓子に溺れてはいなかったので、その店に行くのはたまにでした。
このため毎日行くほかの子たちのように、どこになにがあるかとか、値段などを把握してはいない。
それでじっくりと店の中の商品を見たい。
また足し算をしながら予算内におさまるかもゆっくり考えたい。
が、それは許されない。
私が見始めるとすぐに「どれ?」とお婆さんは言ってきます。
これで充分私にはプレッシャーなのですが、さらに「お金もってるの?」と聞いてきます。
冷やかしかどうかをお婆さんは知りたいようです。
私はポケットから財布を出して、お婆さんに見せます。
すると「ふん」と言って腕を組み、「どれ?」とまたプレッシャーを掛けてきます。
私は確かにトロくてドン臭いのですが、子どもだというハンディをくれてもいいように思うのです。
が、お婆さんは圧を掛け続けてくる。

店の奥にはお婆さんの住居が。
そこではテレビが付けっ放しのようで、音が店内に流れきます。
クイズ番組が進行中で、誰かが正解した模様。
お婆さんはそちらが気になるようで、背後へ顔を何度も向けます。
そして顔を店の方に戻しては「どれ?」と繰り返す。
お婆さんのあからさまな圧によって私は焦ってしまい、どれが欲しいのかよくわからなくなってくる。
私はテキトーに商品を指します。
お婆さんは透けている薄い袋に商品を入れると、値段を告げます。
私は支払いをして、袋を受け取ります。
店を出て振り返ると、もうお婆さんの姿はありません。
テレビの前に戻ったのでしょう。
帰り道袋の中を覗くと・・・本当に欲しかったのかな? といった駄菓子が。
駄菓子屋の帰りはいつもなんだかなぁといった気分になりました。

こんな風にごくたまに思い出しては、あのお婆さんの接客はなってなかったよなぁなんて思っていましたが・・・最近になって、どんな人生を過ごしてきた人だったのだろうと、妙に興味を引かれるようになりました。
年のせいでしょうか。
それとも作家の業が染みついたのでしょうか?

ため息

  • 2016年07月28日

先日タクシーに乗りました。
私が住所を告げると、運転手がカーナビにそれを入力。
タクシーは動き出します。

と、運転手がため息。
私はなにかメンドーなことをあなたに頼みましたか? と聞いてみたくなる。
1分も経たないうちに、運転手は再びため息。
で、またすぐにため息。
どうやらこの運転手の癖のようなものみたい。
だからというか、しかもというか、運転手は自分がため息を吐いていることに無自覚。
なので、狭い車内でため息を頻繁に聞かされるこっちの気持ちに気付かない。
tameiki
以前病院の待合室で、母と娘らしき二人連れを見掛けました。
母親が「はぁ」と立派なため息を吐く。
立派なため息というのは、息の音だけじゃなく、声も一緒に出ているものです。
あまりにはっきりと強いため息を聞き、私は読んでいた雑誌から顔を上げました。
母親の隣に座っている娘はシカト。
「お母さん、いったいどうしたっていうの?」なんて言ったりしない。
そしておよそ3分後、母親が再び「はぁ」という立派なため息を。
ここでも娘はシカト。
恐らくこんな風に母親がため息を吐くのは日常的なんでしょうね。
だから娘は驚いたり恥ずかしがったりせず、聞き流す。

幼い頃、祖母から「ため息を吐くと、幸せが逃げていってしまうんだよ」と教わりました。
当時の私は幼稚園児。
その前後を覚えていないのですが、突然そんな格言を幼稚園児に言うようなエキセントリックな祖母ではなかったので、想像するに私がため息を吐いたのでしょう。
幼稚園児がどんな不満や遣る瀬無さを抱えていたのか不明ですが、恐らくため息を吐いた私に、祖母が止めなさいと注意してくれたのだと思います。

祖母の言葉を胸に、ため息はなるべく吐かないようにしています。
それでも時々吐きたくなる状況に。
そんな時でもぐっと堪えて心の中でにして、実際に息を吐いたり、声を出したりしないようにしています。

更に言うなら、ため息は一人の時に吐くものです。
ため息は周囲にも残念な気分をまき散らしてしまうから。
灯りを消した部屋で、ベッドで、会社のトイレの個室でこっそりが、正しいため息の吐き方。
車内や病院の待合室では控えた方がいいように思うのですが。

小説の装丁

  • 2016年07月25日

小説の装丁は大事です。
色んな役割を担っているから。
小説は中を読んでみなくちゃわからない。
こんな作品ですよと知らせて、その世界へいらっしゃいと誘う必要がある。
これが装丁の役目の一つ。
また目立ってなんぼという点もあります。
書店にはたくさんの本が並んでいるので、そこでしっかりと存在をアピールしなくてはいけない。
アイキャッチャーとしての役目もあるのです。

目立ちたいなら、すんごいインパクトのある大きな文字にするとか、蛍光色を使うとか、デコっちゃえばいい。
でもこうしたアイデアの場合、コストや配送などの様々な問題をはらんでいて、実現させようとするといくつものハードルを超える必要が。
タイトルを筆文字なんかでどーんとでかくするというのなら、コストはかかりませんが、作品が穏やかで静かなトーンだったりすると、作品とギャップがあり過ぎてよろしくない。
装丁のデザインには正解がないだけに、関係者は頭を捻り試行錯誤します。

「総選挙ホテル」では白地に人物のイラストが並ぶという装丁になりました。
イラストはほんわかとした印象のものです。
小説を読み終わった方が、今一度装丁を見て、あれ? これ、後藤さん? なんてイラストの中に登場人物を探してもらえたらいいなぁと思います。
ってことは、社長はどれ? これ?
なんて。
P1010612
お仕事小説として読んでいただいても勿論いいのですが、それぞれの人間ドラマを描く中心にホテルがあるといった読み方をしていただいても。

「総選挙ホテル」は私にとって20作品目となります。
年齢、仕事、価値観、家族・・・様々なキャラクターが登場しますので、そのどれかに感情移入して読んでいただけるのではないかと思っています。

エアコンクリーニング

  • 2016年07月21日

アレルギー体質だと自覚しています。
食べ物に注意を払い、したくなくても掃除をするよう心掛けています。
が、エアコンのクリーニングはしたことがありませんでした。
気にはなっていて、時折じっとエアコンを見上げたりすることもあったのですが、その都度まだいいんじゃないかなと、根拠のない理由を盾に取り先送りしてきました。
そして気が付けば10年という月日が流れていました。

やろう。今年こそ。
突如やる気を出して、ネットで調べてみると・・・予想していたより価格より低い。
なんだ、これぐらいの金額だったら、もっと早くやっておけば良かった。
ん?
値段の横に小さな文字を発見。
これは壁掛けタイプの値段だと書いてある。
もう少しでいつものように、うっかりをするところでした。
我が家のエアコンは、天井に埋め込まれているタイプです。
そこで検索の仕方を変えて、天井に埋め込まれているエアコンのクリーニング価格を調べてみると・・・「結構するな」と思わず呟くような金額。
壁掛けタイプより2倍~3倍ぐらい。
が、しょうがない。
舌打ちをして、どこに頼もうかと考え始めたのですが・・・業者がたくさんあり過ぎて選べない。
この調子だと迷っているうちに月日が流れていくぞと心配し始めた時、そういや、いつも服のクリーニングを頼んでいるところがくれたチラシに、ハウスクリーニングもやっていると書いてなかったっけ? と記憶のスイッチが入りました。
そのチラシを探しだして読んでみたところ、エアコンクリーニングもやっている模様。
そこに書かれている値段は、ネットで調べた時と大体同じぐらい。
ネットで調べるのもメンドーなので、ここに頼んでしまおうかと思い、服のクリーニングの集配に来た担当者に「エアコンのクリーニングって」と呟いてみると・・・「やってます。やってます」と前のめり気味に2回言われました。
eakonn
それは6月のこと。
暑くなってエアコンがフル稼働する前に綺麗にして、気持ち良く夏を過ごそうとの考えがあったのです。
ところが、数日後にエアコンクリーニングの担当者だという人物から入った電話では、6月はすでに予約がいっぱいで、7月になるとのこと。
ま、しょうがないと、7月に予約をしました。

エアコンクリーニングの当日。
その日は朝からぐんぐん気温が上昇。
午後1時に予約をしていたため、掃除をする人は大変だなぁと同情しながら天気予報をチェック。
最高気温が33度と予想されていて「キツい仕事だよなぁ、エアコンクリーニングの仕事って」なんて思っていました。
この時点で、その激暑地獄は他人事。
自分も同じ目に遭うということに気付いていない。

エアコンクリーニングの担当者が来て、一緒にソファを動かしている最中にハタと気が付きました。
クリーニング中はエアコンを稼働できないということに。
ということはその間、我が家が激暑地獄に。
肉体労働をする作業員だけでなく、なにもしない私も激暑地獄に落ちる破目に。

クリーニング開始後5分で耐えられないと感じ、脱衣所にあった扇風機を作業員と私の間に置き、風の流れを作ってみますが、そんな程度で部屋が冷えるわけもなく。
およそ2時間耐え続けました。
しんどかった。

皆様、エアコンクリーニングをする際は、時期にご注意くださいませ。


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