「手の中の天秤」を文庫化するにあたって

  • 2016年09月15日


発売されたばかりの文庫「手の中の天秤」。
読んでいただいたでしょうか。
それともこれからでしょうか。

この小説を執筆したのはおよそ5年前。
文庫化するにあたり、5年前に書いた原稿を改めて読み直し手を入れます。
この作業は精神的には結構しんどい。
昔の自分とがっぷり四つに組まないといけないから。

作業にあたり、まずテーマ音楽をなににしていたっけとリストをチェックします。
1つの作品に1つのテーマ音楽を決めて、執筆中ずっとその音楽を聞き続けるのが私のスタイル。
が、5年経ち、なにを聞いていたか忘れていたので、メモっていたリストを調べます。
リストにはJUJUの「Request」と書いてありました。
カバーアルバムです。

「Hello,Again」「ギブス」「WHITE LOVE」「First Love」・・・などの名曲をJUJUが歌っています。
パソコンにCDを入れて音楽に耳を傾けると・・・たちまち作品世界が蘇ってきます。
どんな色合いの世界だったか、どんな登場人物たちだったかを思い出します。
それは以前馴染みのあった場所へ行き、懐かしい人に再会したような感覚。
音楽の力を借りて原稿を読み、手直しをしました。

小説「手の中の天秤」では、現実とは少しだけ違う世界を描いています。
そこは「執行猶予」の捉え方が現状とは違っている世界。
「執行猶予」は加害者が自分の犯した罪を反省する期間とされています。
また執行猶予期間中の加害者の反省具合を、遺族や被害者がチェックできるというのも現実とは違う点です。
半年ごとに提出される、加害者の日常報告。
そこになにが書いてあったら、遺族や被害者は満足するのか。
この制度が遺族や被害者の哀しみを減らすのか。
執行猶予期間が終了した時、加害者を刑務所に入れるか、入れないかの判断をするのは遺族や被害者。
どんな決断をしたら心の痛みが減るのか・・・。
登場人物たちと一緒に、いろんなことを感じて欲しいと思っています。

10分の空き時間

  • 2016年09月12日

自宅で10分の空き時間が出来たら、なにをしますか?
10分ってところがミソですよね。
これが20分だと、そこそこ時間があるので、なにか1つ用事をこなせそう。
もし5分だったら、なにもしないうちに時間は消えてなくなる。
しかし10分だと・・・ぼんやりするにはちょいと長くて、でもなにかするには足りないような、そんな時間。
hima
ゲームをするとか、ネットでニュース検索する・・・なんて人が多いんでしょうかね。
私はこんな時、辞書を開きます。
我が家には広辞苑がありまして、この厚さ8.5センチの辞書をテキトーに開きます。
で、読んでいく。
あぁ、すっかり使わなくなったなぁなんて懐かしい言葉と出合ったり、なんすかそれ? という未知の言葉と出合ったり。
結構楽しい。

辞書ではなく、星新一さんの本を開くこともあります。
星さんが発表されたショートショートの全集をもっていまして、こちらは一冊が広辞苑より厚みがある本の三冊セット。
この中に1001編の作品が収載されています。
人間のおかしみにくすっと笑ってしまったり、業の深さに胸がしーんとなったり・・・星さんのショートショートでは、登場人物を奇抜な設定に置いてはいても、描いているのは人間そのもの。
だからこそ不朽の名作ばかり。

今は長い小説を読んで貰うのはなかなか難しくなっています。
作家としてはどっぷりと1つの作品世界に浸って欲しいのですが、現代人は忙しく、また興味の対象も多い。
だから短時間で面白さが味わえる、数分にまとめられた動画が人気に。

そんな現代人に、星さんのショートショートは合っているように思います。
星さんのショートショートを入口として、小説の面白さに気付いて貰って、ほかの作家の作品への興味に繋がっていってくれたら嬉しいのですが・・・。

先日のこと。
来客のためかる~く仕事場を掃除して準備。
と、約束の時間まで10分ほどある。
で、星さんのショートショートを読み始めたら・・・夢中になってしまい、チャイムが鳴ってはっとしました。
お客さんがいらっしゃる前にトイレに行き、顔の脂を取って身支度をするつもりだったのに、時すでに遅し。
このように夢中になり過ぎて、次の予定に支障をきたすこともありますが、充実した10分であったことは間違いありません。
こんな空き時間の活用、どうでしょう。

文庫「手の中の天秤」が発売になります

  • 2016年09月08日

文庫「手の中の天秤」が発売になります。
9月10日頃から書店に並び始める予定です。
p1010643
単行本版とは装丁が変わりました。
濃い感じの仕上がりになったと思うのですが、いかがでしょう。
人生の奥深さ、濃さを表しているかのようでしょ?

「手の中の天秤」では悲劇に見舞われた人々を描いています。
悲劇とどう向き合うのか、どう乗り越えるのか、乗り越える必要があるのか・・・そんな難しいテーマに挑戦した作品です。

執行猶予期間中は加害者が反省する期間・・・と捉える世界の物語です。
それは執行猶予被害者・遺族預かり制度と呼ばれています。
裁判で有罪の判決が出て執行猶予が付いたら、その間の加害者の生活状況が担当係官によって調査されます。
そのレポートは、係官から被害者や遺族に届けられます。
加害者がどんな生活を送っているのかを知らされた被害者や遺族は、なにを思うのか。
どういうレポートだったら満足するのか、心の傷みが減るのか・・・新人係官が戸惑いながらも様々なケースと向き合っていきます。

執行猶予期間が終了する時、加害者を刑務所に入れるか、入れないかを決められるのは、被害者と遺族。
どんな決断を下すのか、またその際にレポートが果たした役割はなんだったのか・・・読者の皆さんに見届けていただきたいと思っています。

小説を書くという仕事の中には、登場人物に感情移入しながら書く作業と、少し距離を置いたところから眺めて推敲する作業の2種類があります。
役者さんと監督さんの2種類の仕事があるといった方が、わかり易いでしょうか。
まずは自分がその登場人物になりきって言葉を発し、心を動かす作業。
そうして書いたシーンを「いや、そうじゃなくて、突然立ち上がってから、指を相手に付きつけて大声でセリフを言ってみようか」とやり直しをさせる作業。
これを交互に行って書き進めていき、1つの小説が出来上がります。

「手の中の天秤」ではこの2つの作業の切り替えが難しかった。
どの登場人物も悲劇を経験しているので、その人物になりきった時の、心の荒れ様がしんどかった。
それだけでも充分しんどいのに、今度は監督の立場でダメ出しをしなくちゃいけない。
今のはもっと感情を内に秘めてやり直し、なんて思っちゃう。
もう一度登場人物の辛い気持ちにすぐには入れなくて、お茶を飲んだりします。
一服して覚悟を決めてから、登場人物に再び侵入していく。
この繰り返しは、こちらの心身に負荷が掛かります。
途中で放り出さず、なんとか最後まで彼らに寄り添えたのは、それが彼らを生み出した私の責任だと思っていたからでしょう。

ぜひお手に取ってみてください。

走り方が

  • 2016年09月05日

電車の中でなにをしていますか?
ここ数年、スマホを弄っている人を見掛けることが多くなりました。
私は電車内で取り出すことは滅多にない。
車内にいる人をちらちら見たり、会話を盗み聞きしたり、中吊り広告を眺めたりしています。
ho-mu
先日電車のシートに座っていた時のこと。
電車が駅に停車し、乗客が降り、乗ってくるのを眺めていました。
発車ベルが鳴り出します。
と、階段を駆け下りてきたオッサンが、猛ダッシュで電車に向かってくる。
それが、女の子走り。
全然速くない。

フツー走る時は、肘を曲げた状態で腕を前後に動かして足を連動させます。
では女の子走りはどういうのかというと、肘を曲げた状態は一緒なのですが、腕を前後には動かさず、肘を支点として手を左右に動かす走り方。
前に行きたいのに手を左右に動かしちゃうので、スピードを上げるどころか、むしろ走りを邪魔しちゃう。
運動下手な女の子の典型的な走り方。

これをオッサンが必死の形相でしてる。
オッサンは奇跡的に電車に飛び乗ることに成功し、ドアが閉まりました。
肩で息をするオッサン。
「アンタ、それほど速くなかったからな」と私は心の中で声を掛けました。
このオッサン、そっち系ではなさそうな佇まい。
なのに女の子走り。
飛び乗ることに成功したせいか、ちょっとした達成感と満足感を漂わせています。
女の子走りだったくせに。
見れば、結構仕立てのいいスーツを着ている。
そこそこの収入がある人なのでしょうか。
女の子走りだったけど。
靴をチェックすると、イタリアの高級ブランドの物っぽく、結構なオシャレさんとお見受けする。
女の子走りだったけど。

走っていた時の姿が思い出されて、私の顔はにやついてしまいます。
が、辺りを見回せば・・・スマホ画面を見つめている人ばかり。
オッサンの女の子走りを見た人は私だけの模様。
なんて勿体ないことでしょう。
電車の中には様々な人がいて、びっくりすることもしばしばです。
車内で見掛けた人やエピソードをアレンジして小説に使うこともあります。
今日もなにかないかと、私は電車の中できょろきょろします。

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