お金持ち

  • 2018年05月28日

世の中に「お金持ち」の人たちがいると知ったのは、いつだったのか――。
ポンコツの私でも恐らく小学生の頃には、うっすら気が付いていたように思います。
それは身なりなどではなく、何気ない会話の中で「へ?」と思う瞬間があった時に、なんか私とは違う生活をしているっぽいぞと気付くのです。

大学生の頃のこと。
誕生日を控えたクラスメートに予定を尋ねました。
するとちょっと哀しそうな顔で、家族でどこかで食事をするんだと思うと言いました。
予定と表情が間違ってない? と思った私は「それで、なんでそんな哀しそうな顔なの?」と尋ねました。
彼女は答えました。
だって去年は家にお友達を100人呼んでパーティーだったのに、今年は地味だからと。
家に100人?
腰が抜けそうになりました。

別のクラスメートは地方出身。
大学の近くで一人暮らしをしている彼女の部屋に遊びに行くと、3LDK。
ひと部屋は衣裳部屋になっていて、ひと部屋は寝室に、最後のひと部屋は勉強部屋でした。
「家賃高いんじゃない?」と聞くと、「わからない」と答えるクラスメート。
親が家賃を払ってくれてるからわからないの? と更に尋ねると、「借りているのではなく買って貰ったもので、その金額は知らない」とクラスメートは言いました。
大学には寮があったのですが、そこに入れるのではなく、娘のためにマンションを買っちゃう親がいるということに私は驚愕しました。

社会人になって販売仕事をしていた時にも、様々なお金持ちを見かけました。
かなり高額の商品を扱っているお店だったからだと思います。
当時20代に見える男性が店にぶらりと入って来て、スーツに目を留めました。
そこは靴のブランド店で靴はかなりの高価格だったのですが、スーツやワイシャツ、ネクタイなどはライセンス品のためお手頃でした。
そうはいっても靴と比べればという話で、庶民が気軽に買えるという価格ではありませんでした。
男性客は20万円ほどのスーツの値札を見て「安いっ」と驚きの声を上げました。
そして振り返り「この値段間違ってない?」と聞いてきました。
私はとことこと男性客に近付いて、彼が持っている値札を覗き「合ってます」と答えました。
「なんでこんなに安いの?」と質問された私は、答えに窮します。
普段はどうしてこれだけいい値段なのかを「イタリア製の素材だから」「職人が手作業で」「一つひとつ丁寧に」「大量生産ではないので」といった言葉で煙に巻いていました。
逆に「どうしてこんなに安いのか?」と問われた時の回答を用意してはいませんでした。
困った私は「ご試着なさいますか?」と次のステップへ進ませてしまおうと試みました。
「そうだね」という男性客に「サイズはおいくつぐらいですか?」と尋ねると、「わからない」と言われました。
あっ。
この人はもしかしてオーダーでしか服を買ったことがないんじゃないの? と思った私は、「いつもオーダーですか?」と尋ねました。
すると「そう」と頷きました。
そして少し興奮した顔で「信じられないよ、こんなに安いなんてさ」と言います。
彼は生まれて初めて吊るしのスーツの値段を見たのでしょうか。
それまでの価値観をひっくり返されて驚いている姿は、無垢な赤子のように見えました。
彼を国道沿いに建つ紳士服の専門店に連れて行ったら、心臓発作を起こすのではないかとも思いました。

世の中には「お金持ち」がいるんだぜというお話でした。


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