買い物に付き合って

  • 2018年07月23日

友人A子が歌を習い始めたという。
てっきりどこかのコーラスグループに入会したのかと思ったら、一人で声楽の先生の教室に行き習っているとのこと。
声楽中心の生活になったそうで、声にいいと言われている食材を食べ、声量を上げるために必要だからと、毎日ストレッチを欠かさないらしい。

そのA子から買い物に付き合ってと言われて、ほいほいと指定された場所に出向くと・・・そこは服のオーダーメイドの店でした。
完全予約制のお店には、女性スタッフが4人待機している。
発表会のための服を誂えるのが今日の目的だと、初めて知る。

A子は「こういう感じにしたいんです」といって、デザイン画を店員に差し出す。
なんでも海外の誰かが着ていた服を基に、アレンジして考えたデザインだという。
すでに自分でデザインを考え、それを絵にしてきたA子にちょっと驚く。

次に生地を選ぶことに。
大量の生地サンプルがテーブルにどさっと置かれた時、ようやく私はこりゃあ大変なことになったぞと気付く。
今日中に私はこの店を出られるのだろうかとの不安が胸に溢れる。
次々にサンプルを手に取り見ていくA子。
三十分掛けてすべてのサンプルを見たA子がひと言。
「ここにはない」
マジで?
思わず「掠ったのもなかった?」と尋ねる私の声は少し震えていたかも。
「ない」とA子は言い切る。

そうした客に慣れているのか、店長は落ち着いたもんで「それでは生地メーカーのサイトで探していただきましょう」と言ってパソコンを操作し、A子に画面を向ける。
そこにはずらっと生地の画像が。
A子はにっこりと微笑み「探します」と宣言。
私はその隣で、呆然とA子を見つめるしかありませんでした。

この時点までに、A子は私に1度も意見や感想を尋ねてきていません。
A子の頭にはすでに理想の服があって、それを形にするためにひたむきに進んでいる。
そこに迷いはない。
だから隣にいる私になにも尋ねない。
そんじゃ、なんのために私を誘ったんだよという素朴な疑問が浮かぶ。
しかしそんな質問を口にはできない雰囲気が、A子から醸し出されている。
仕方ないので私はなにも言わずに、店に置かれていた雑誌の頁を捲る。

「これ」とA子が声を上げたのは、パソコン画面を見始めてから30分後のことでした。
その奇跡に感謝。
それからようやく採寸。
満足そうな顔のA子と店を出たのは、入店から2時間後でした。
そこでようやく私の存在に気付いたようで「なんか付き合わせちゃって悪かったね」とA子は言いました。
「結局A子は私に意見や感想を、1度も求めなかったね」と指摘すると、「そうだった?」とA子は目を見開きました。
おいおい。

長時間付き合わせたからと言って、A子がお茶代をご馳走してくれました。
そのカフェで楽しそうに声楽のことを話していたA子。
A子とは長い付き合いだったのに、彼女が昔から声楽を習いたかったこと、でもできなかった事情などを、私はまったく知らなくて、友人であってもすべてを知るなんてことはできなくて、その人のごく一部分だけを垣間見ているだけなんだなと、思い知りました。

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