キーボードが

  • 2021年06月28日

私の指先にはなにかある。
恐らく指先からなにかが染み出ている。
だからキーボードの文字を消してしまう。

キーボードの上には、アルファベットや数字などが印刷されていますよね。
それが消えていくのです。
こんな感じに。

一番初めに消えたのは「K」でした。
使用頻度からいえば、母音が圧倒的に多いはずです。
「あいうえお」に対応するアルファベットなので、「AIUEO」ですね。
なのに、「K」が消え始めて首を捻りました。
次に消え出したのは「N」でした。
その次は「M」。
そして今は「A」と「S」と「O」が消え始めています。
この順番が謎です。

昔フリーライターをしていた頃、ある代理店が大勢のライターを募集しました。
知り合いに誘われた私は、時給の高さに惹かれて参加することにしました。

部屋に集められたライターたち。
約1ヵ月間の仕事内容が責任者から知らされます。
聞いてみたところ、ライティングというよりは、入力作業に近いんじゃないのかといった仕事内容でした。
でもまぁ、ギャラがいいし。
と、私をはじめ多くのライターが思ったようで、誰もなにも言いませんでした。

別室に案内されると・・・広い部屋には100台ぐらいパソコンが並んでいる。
責任者が言います。
どこでも好きなところに座って、作業を始めてくださいと。
すると20人ほどの人たちが、ダダッと走り出しました。
そして一番奥のパソコンへ向かいます。
へ? どうしてそんなに奥に行きたいんだろうと、私は不思議に思いました。
私はすぐ近くの席に座りました。
さてと、とキーボードに目を落としてびっくり。
キーボードが真っ白。
文字も数字もなにも書かれていない。
変なパソコンを選んじゃったと動揺し、席を移動しようと思いましたが、時すでに遅く空いている席はありません。
私は首を伸ばして責任者を探しました。
その時、隣席の同年代らしき女性が言いました。「奥にある10台のパソコン以外は全部、キーボードの文字は消されているのよ」と。
「なんでですか?」と私が問うと、「短時間で大量に入力させたいから、それにはブラインドタッチで入力させる必要があると考えたみたい」と、その女性は答えました。

なんでも、そこに答えがあると思うから、人はそこに目を向けてしまう。
つまりキーボードに文字があると思うから、画面から目を離してキーボードを見てしまう。
でも見てもないとわかれば、やがて人は見なくなる。
そうすると画面から目を離して、キーボードを見なくなる。
画面とキーボードの間で目を行ったり来たりさせずにすむと、その分時間を短縮出来る。
入力作業のスピードが上がる。
と、こういう考え方で、キーボードに印刷されていた文字や数字をすべて、わざと消したそうなのです。
すげぇところに来ちまった。
そう思いました。
その女性は2ヵ月前にもそこで働いたことがあり、こうした事情を知っているのだと言いました。
同様にそうしたことを知っていた人たちが、文字が消されていない、フツーのキーボードに向かって走ったのかと納得。

当時の私は、視線を画面とキーボードの間で行ったり来たりさせて入力していました。
そういうものだと思っていたし、そこまでスピードを問われるようなことはなかったのです。

その日何度キーボードに目を落とし「あっ、ないんだった」とがっかりしたことでしょう。
入力スピードが上がるどころか、いつもよりかなり遅くなっています。
こうして無理矢理ブラインドタッチをさせられる羽目に陥り、なんとか出来るようになったのは3日目から。
ブラインドタッチに慣れてみれば、その方が目が疲れないといった利点に気付きました。

今になるとこのスパルタ的指導には感謝しています。
こうしてブラインドタッチを習得した私は、指からなにかが出ていて、キーボードの文字を消しても平気な女になれたので。

それにしても私の指先から出ているものはなんだろう・・・。

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