桜が

  • 2023年03月20日

今年、関東の桜の開花は早かったですね。
前の住まいの隣に、一本だけ桜の木がありました。
普段はそこに木があることなんて、意識に入ってこないのですが三月になると違います。
まずその木の下で立ち止まり、スマホで撮影している人を見掛けるように。
皆、蕾の状態を確認しているのです。
そして私も。
足を止めて蕾を見つめます。
こんなに大勢から咲くのを待たれる植物って、他にないですよね。

電車の車内から窓外の景色をぼんやりと眺めている時、ぱっと桜が目に入ると、それだけで今日はいい日だなんて思えます。

これだけ美しく存在感のある花ですから、小説の中に何度も登場して貰ってきました。
「残された人が編む物語」では登場人物の1人が、池の周囲を飾る夜桜を、高台の邸宅から眺めるシーンがあります。
浮かれ騒ぐ周囲の人たちとは違って、彼は寂しい気持ちで夜桜を眺めます。

また文庫「じゃない方の渡辺」では、主人公が中学校の入学式の日に、桜の木の下で記念撮影をする家族らをちらっと見るシーンがあります。
彼女は記念撮影はせずに、父親と2人で家路につきます。
どちらも桜だからこそ成立するシーンになっています。

「残された人が編む物語」で登場した池の周囲を飾る桜には、モデルとなった場所があります。
実家から電車で4つか5つ隣の駅に、大きな池がありました。
普段は閑散としたエリアなのですが、桜の季節になると一転、皆が吸い寄せられるようにそこに集まります。

子どもの頃は親に連れられて花見に行ったものの、桜は綺麗だけど、その下でブルーシートを敷いて騒ぐ大人たちには、眉をひそめていました。
大声で騒ぐし、喧嘩する人はいるし、毎年池に飛び込む酔っ払いが出るしで、本当に桜を見たくて集まってるのかなと首を傾げていました。

が、大学生になると、眉をひそめられる側になる。
ブルーシートの上で大騒ぎをして、飲み食いに興じました。
この体たらくが大人になるということでもあったりする。

働き始めるようになると、ブルーシートを敷いてというのがアウトになる。
お尻が痛くなるし冷える。
簡易トイレの行列に並ぶのもしんどい。
桜を窓越しに眺められるカフェとか、ホテルのラウンジでの花見を所望するように。
桜との距離は遠くなりますが、快適な場所を選ぶようになるのです。
楽ちんな方へと進んでいるものの、桜を愛でる気持ちは変わっていません。
多分これからも、小説の中に何度も登場することでしょう。

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