服をクリーニングに出したくなったら、電話をします。
そうすると集配に来てくれます。
いつものように集配に来た男性スタッフに、ブラウスが〇枚と、セーターが〇枚と・・・と渡していきます。
と、「これはロイヤル仕上げにしましょうか?」と男性スタッフが言います。
彼が手にしているのは、私が持っている中で、ベスト3に入るほどの高額なコート。
なぜ?
ほかの服の時には言わずに、そのコートにだけ言う?

ロイヤル仕上げが一体なんなのか、私にはわかりません。
以前何度か説明を受けたのですが覚えていない。
普通より仕上がりがいいのだったか?
普通のより料金が高かったことは記憶しています。
ほかの服の時に「これはロイヤル仕上げにしましょうか?」と言われたら、「いえいえ、そんな必要はございません」と断れる。
でも、奮発して買ったコートに対して「ロイヤル仕上げにしましょうか?」と言われたら、そうした方がいいのかなと思ってしまう。
そもそも男性スタッフは、なぜそのコートにだけ言ったのか。
彼が見たのは外観だけ。
服の襟元にあるブランドタグを見たわけじゃない。
ひと目見ただけで、価格を予想できたということでしょうか。
じっと見つめてみますが、ほかの服との差はわからない。
さすがにぺらぺらな生地ではないけれど、すんごい生地とも言えない。
なのに彼はそれにだけ「ロイヤル仕上げにしましょうか」と言ったのです。
もしかすると、これは高いのよという私の気持ちが服を持つ手に表れていて、ほかの服より丁寧に扱っていたのでしょうか。
こっちだったとしても、彼の観察眼が凄いということになりますよね。
でもって、どうしたかというと「それじゃあ、お願いします」とロイヤル仕上げを依頼。
まんまと彼の手に落ちたのでした。
そういえば・・・その男性スタッフからは時々電話が掛かって来ていました。
「クリーニングに出すものはありませんか」と言うのです。
それじゃあと、出したことが何度かあった気が。
営業力のある優秀な人だったんですね。
それからは、値段が高かった服を出す時は、ドキドキしながら彼に渡すように。
見つけられ、「ロイヤル仕上げ」と言われてしまうのではないかと思うからです。
で、大抵見つかる。
しょうがないので、安い物と安い物の間に挟んでまとめて渡してみたりする。
が、優秀な彼はそんなことではごまかされない。
高かった服を見逃さない。
そして、今日も言うのです。
「これはロイヤル仕上げにしましょうか?」と。
彼に乾杯。
肌がすっかり荒れて、エステに行こうと思ったのは十年ぐらい前。
今になると、荒れていたのはフードアレルギーが原因だと思われ、なんちゅう無駄遣いをしたもんかと後悔。
が、当時はエステに行って、肌を回復させようと考えたのでした。
行ったのはホテルの中のエステ。
スタッフは感じがいいし腕も見事だったのですが、残念ながら硬いベッドにずっと寝ていなくてはならず、これが腰にきた。

ベッドに横たわるのではなく、デンタルクリニックのように椅子に座っている状態で、背もたれを倒すというスタイルで施術してくれるところを探しました。
雑誌で見つけたそこは自宅から近く、キャッチコピーには隠れ家のようなサロンとなっていました。
web予約をするとメールがきて、そこには最寄駅からの行き方がかなり細かく記されていました。
マンションの一室でやっていて、看板などは出ていないので、見つけにくいかもしれないが、わからなかったら電話をくれと書いてあります。
で、予約した日に行ってみると・・・住宅街の中に建つ高級マンションを発見。
部屋番号を入力し、オートロックを解錠して貰います。
エレベーターに乗り込み、指示された階数で下りると、一人の女性が待っていました。
その女性に案内され入ったのは、マンションの一室。
ごくフツーのマンションの一室を、エステ店用に改装した模様。
だからといって、そこら辺に生活用品が転がっているといったことはなく、ちゃんとエステだけのために用意されている部屋でした。
エステの途中ではちょいちょい放置される時間があります。
顔になにかを塗られた後で「〇〇が浸透するまで、このまま十分お待ちくださいね」と言われたりする。
この放置されている時、椅子に仰向けの状態で座り目を瞑っているので、なにもすることがない。
せめてノリのいいBGMが掛かっていてくれたら、この退屈な時間も楽しく過ごせるのかもしれない。
でも掛かっているのは、穏やかで静かな癒し系の音楽。
「辛抱」という文字を心の中で書いている時、隣室から話し声が。
隣室にスタッフたちがいるようで、その話し声が聞こえてきます。
声の感じから、少なくても3人はいると予想。
客は私1人。
これで商売は成り立つのか? との疑問が。
エステ店を開くつもりで分譲マンションを購入したのか、それとも分譲マンションを買った後で、エステ店をしようと思い付いたのか。
はたまたここは借りているだけなのか。
エステは完全予約制。
通りがかった人がたまたまやって来るという商売ではないので、客が私だけだとわかっているはず。
それにも拘らず、3人のスタッフがつめている理由が思いつかない。
あまりに暇なので、1日に来る客の数を予想し、掛かるだろう経費を計算。
がっかりするような利益額になって、勝手にそこの将来を憂いました。
施術後支払いをしようとする私に、スタッフが提案してきたのは、回数券を買うという方法。
10回分の料金で11回のエステサービスを受けられると説明します。
来月そこがまだ存在しているかを危ぶむ私に、そのような選択は考えられず。
「私は1回分事に支払うのが好きなんです」と不可思議な言い訳をして、そこを出ました。
その後1、2回行ったような気がしますが、結局は行かなくなってしまいました。
今もまだそのエステ店が存在しているのはわかりません。
もし存続しているとしたら・・・聞きたいことは山のようにありますが。
いつものように音楽を聞きながら執筆をしていました。
執筆というのは、パソコンに向かってキーボードを叩くこと。
音楽はそのパソコンのモニターの下部に付いているスピーカーから聞こえてきます。
スピーカーと耳の距離は近く、そのため執筆中は音楽に包まれているといった感覚に。
私に音楽の才能はなく、音痴だし耳がいい訳でもありません。
謙遜しているのではなく、結構酷い有り様なんです。
高校生の頃、音楽の授業で教師がピアノを弾くので、それを楽譜におこせという難題が出たことがありました。
耳コピしろというのです。
教師は一音一音ゆっくりとピアノを弾いていきます。
全神経を耳に集めるかのごとく音と向き合いましたが、0点という惨敗の結果でした。

それは午前九時頃のこと。
スピーカーからの音楽に包まれている耳のセンスゼロの私が、「ぽちゃ」という音を拾いました。
「ぽちゃ」はあんまりスピーカーからは聞こえてこない類の音です。
大抵水関係の音。
しかもスピーカーとは反対の背後から聞こえてきた気がする。
が、私の耳はポンコツという自覚があるため、スルー。
5分後、再び「ぽちゃ」が聞こえてきました。
振り返ります。
背後にあるのは壁だけ。
「ぽちゃ」と呟く妖怪がいたりはしない。
と、ここで隣の部屋との仕切り扉に目がいきます。
隣は洗面所になっていて、水がある。
そっちか?
急いでその扉を開けると・・・床がびっしょびしょ。
作動中の洗濯機から水が漏れていました。
「ぽちゃ」は妖怪の呟きではなく、洗濯機から漏れた水が床に落ちる音でした。
呪いの言葉を上げながら、水を拭き取りました。
雑巾で吸い取り、絞ってバケツに捨てるを繰り返したら、2リットルぐらいの量になりました。
これだけの量が漏れていたのですから、結構前から「ぽちゃ」という音はしていたのかもしれません。
耳がポンコツで気付くのが遅れました。
ようやく音に気が付いた後も、自分の耳を信じられない私はスルーし、事態を悪化させてしまったようです。
今度よくわからない音が聞こえた時には、自分を信じてみようと思いました。
女だけの飲み会で、お題が出ることがあります。
以前出たお題が「生まれ変わって、男だったらなにをする」というものでした。
皆真剣に考えます。
「会社帰りに立ち飲み屋で一杯引っかける」「鳶になって、高いところをスイスイ歩く」「バンドをやって、女の子からキャーキャー言われたい」・・・といった答えが。
心理学者さんであれば、なんらかの解析をしてくれそうなコメントばかり。

で、私はといえば・・・ひげを生やしてみたい。
よし、俺はひげを生やすぞといった決意をするところから始めるんでしょうか。
次はどういうヒゲにするかで悩むのでしょうか。
ヘアスタイルの場合、ヘアスタイルブック的なものがたくさんあるので、それを熟読しどういった髪型にするかを考えるのですが、ひげの場合はどうなんでしょう。
ひげスタイルブック的なものはあるのでしょうか。
仮にそういうものがあって、この形にすると決めたとします
生やし始めてみると、思っていたのとちょっと違っちゃうというケースはあるのでしょうか。
なぜか変なところでカールしてしまうとか、密集度が足りないとか。
イメージしていたひげと、自分のひげの差に、どうしたらいいか困るといったことはないのでしょうか。
ナイスミドルな渋いひげを妄想しているのですが、実際は密集度が足りず、貧相なひげになるというオチが待っていそう。
手入れも大変そうですよね。
ただ生やしっぱなしというわけにはいかないでしょうから、常に同じ状態にするべく、毎日手入れをしなくてはいけない。
妄想だというのに、手入れの大変さに気が付いた途端メンドー臭くなってしまいました。
そこで、お題の答えを変更。
生まれ変わって、男だったらなにをする・・・新橋の駅前か日比谷公園で、缶コーヒーを飲みながら黄昏る。
職場で嫌なことでもあったのかなと、周囲に思わせるような雰囲気を醸し出して、ベンチに座ってみたい。
もしくは大森駅のキオスクの前で、カップ酒を飲みながら競馬新聞を広げ、また負けてしまった理由を考察してみたい。
さて、皆さんはどうですか?
生まれ変わって、男(女)だったらなにをしますか?